第3話

道中、小さい森がありましたが


 なんとか抜け出すと


 広い平野にポツンと家がありました。




 グゥとお腹が鳴りました。


 もう何時間歩いたでしょうか。


 いつもならお城に戻ると温かい料理が待っています。


 それが当たり前でした。


 意識がもうろうとし、王子はその場で倒れてしまいました。






「お父さん!お母さん!倒れている人がいるよ!」


 そうかすかに女の子らしき声が聞こえてすぐ、王子は眠りにつきました。






 ◇






 シチューの温かい香りがして王子は目を覚ましました。


 朝日が窓から差し込む。


 どうやらあの後、女の子の家に入れてもらえたようです。




「さあさ、朝食の時間ですよ」




 一家の母親である女性がそう言うとポポロ王子を食卓に招き入れ父親、母親、女の子と四人でご飯を食べることになりました。




 なぜか当たり前のように王子は家族の団らんの中に


入れてもらえました。




 ポポロ王子は自分が王子であることを言いませんでした。


 またあの視線を感じるような、そんな気がしたからです。




 (王子が城を抜け出した?)




 そう思われるのは王子には分かっていました。


 


以前の王子なら他人が考えていることなど理解できるはずもありませんでした。


 今はまだ帰りたくないとだけ伝えました。




 朝食はクリームシチュー。


 嫌いな人参が入っていました。


 王子はやっぱり食べられません。




「僕、人参は嫌いです…」




「無理に食べないでいいんだよ」


 優しく父親は言い、こう続けます。


「親御さんも心配しているだろうからもう帰らないとね」




 王子は何も返事をしません。




 そんな王子の心境を察し、父親は言います。


「畑に行こうか、今日の夕飯の材料を採りに行くんだ。」




「畑?」


 王子にとっては耳慣れない言葉、本などでは聞いたことが


 ありますが実際見たことはありませんでした。






 父親と女の子に家の真裏に連れられると


 そこには広大な畑が広がっていました。






 ◇








 畑には多種多様の野菜や果物が生っており


 王子は驚きました。




「はい!これかぼちゃの種!」




「種?これがかぼちゃになるの?」


 王子は女の子に手に差し出された粒を


 不思議そうに見つめます。




「アハハ!かぼちゃがあのまま生えてくるわけないじゃーん」


 女の子は大笑い。




 王子はなんだか恥ずかしくて赤面してしまいました。




「ここにある野菜や果物は全部小さな種からできるんだ。


 水分や日光、良質な土地、色々考えて育てないと


 大きく美味しくは育たないんだ。」


 父親は王子にそう教えてくれました。




 普段何気なく食べてる食べ物はただでは生えてこない。


 そんな当たり前の事に王子は気づきました。


 嫌いな人参だって誰かの手で大切に育てられているんだと。




 その後、野菜の収穫を手伝った王子は帰る準備をしました。




「なんで僕を助けてくれたんですか?」


 王子は家族に聞きました。




「困っている人を助けるのは当たり前だよ!元気でね!」


 女の子が笑顔でそういうと、父親も母親もにこやかに頷きました。




 王子にとってそれはあっという間でも特別な体験でした。


 今まで感じたことのない気持ちが湧いてくるのです。


 


 そうして王子は新たな気持ちを胸に城に帰りました。




 帰り道、投げ捨てたペンダントを拾い上げ


身に付けました。




 相変わらずはめ込まれた宝石は石ころのままです。


 


 ですが今の王子にとってはそんな事はどうでも良くなっていました。

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