第2話 夏緑青空
毎日暑い日が続いている。
家の日当たりの良い場所に設置している屋外温度計は、日中45度を超える気温を表示していることが珍しくない。市の防災放送や各種メディアでは、日々、熱中症への注意が呼びかけられ、外に出ることはそれだけで命に関わる行為と考えるのが常識となっているようだ。
夏とは、いつから斯くも恐ろしき季節となったのだろうか。
今、夏が好きな人は、ほとんどいないだろう。
だが、私は昔から、夏に対する憧れがある。
私の夏のイメージは、どこまでも青く、深く、吸い込まれそうな青空と、そこに青い空の影を映して浮かぶ、もくもくとした綿雲だ。そして、分厚く力強く濃い緑を誇る植物の葉、眩しい太陽の光を受けて、きらきら輝く水面。うるさいほどに啼き騒ぐ蝉の声。自然が限りなく、力強く輝く、「燃える命の季節」。
いつまでも夏のイメージはそのままなのだが、あの気高く美しく力強いあの青空を、もう何年も見ていないことに気が付いている。最後に見たのは、いつだっただろうか。「これこそ夏の空!」と思える空を。もう20年くらいは見ていないかもしれない。もしかすると、もっと。
熱すぎる空気の中で、変化した水の延長のような空は、もう生まれることができないのだろう。
夏は変わった。力を溢れさせ過ぎて、多くの人にとって、忌むべき季節となったのだろう。美しく魅力的な夏を知らなければ、それも仕方がない。
ただ、私はありし日の夏を知っている。暑いながらも、その美しさ、力強さに憧れを感じずにはいられなかった夏を。
よく民間信仰で、信心がなくなれば、その土地神は消え失せる、というようなことを言う。
ならば、私は「燃える命の季節」夏は美しい、と言い続ける。
いつかあの夏が返ってくることを願って。
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