28話 歌詞会議と精神崩壊(主に俺)
翌日――。
「五期生・自己紹介ソング」制作会議、第2回。
今日は“歌詞作り”の日だ。
通話に入ると、すでに全員が待機していた。
というか、待機というより好き勝手喋っている。
「はいっ!あたしもう書いてきたよぉ!」
「はやっ!?まだ打ち合わせ始まってないぞ。」
「『私のハートはミラクルチョコ〜♪ とける想いはエトセトラ〜♪』」
「……」
「……」
「……」
「お菓子の歌じゃねぇか。」
「かわいいでしょぉ?♡」
「曲名“糖分過多”にしようか?」
「殺すぞぉ?」
「じゃあ俺も考えてきたで!」拳王が胸を張る。
「珍しくやる気出してるな。」
「聞いて驚け。“拳が鳴る、鼓膜が破れる、それが愛の証――!”」
「二度とマイクの前に立つな。」
「おいこら!」
「ていうか鼓膜ネタいつまで引っ張るんだよ!」
「では、わたくしも発表いたしますわ。」
青藍が静かに紙をめくる音を立てる。
嫌な予感しかしない。
「“この世は低俗、愛もまた俗。だが私たちは、それを笑う側にいる”」
「お前詩人かよ!!」
「えっ、けっこう好きかも」
「やめろルリ!!肯定するな!!」
「じゃあルリさんのは?」
「うん、ちゃんと書いてきたよ〜!」
「おっ、真面目枠か?助かる!」
「“愛されるのは当然でしょ? だって私はヒロインなんだから♡”」
「自己紹介じゃなくて自己主張だな。」
「ヒロイン枠の主張強くない?」
「だってヒロインだもん?」
「否定はしないけど!!」
「……最後に俺のを。」
「お、月見っちどんなの?」
「“今日もまたひとり、音と語らう夜。だけど気づけば、お前らの声がうるさい。”」
「おぉん?」
「え、最後のそれ、愛じゃなくて苦情じゃない?」
「心の叫びだよ。」
「病んでるの?」
「真面目に書いたのに!!」
「……とりあえず、全員方向性が違いすぎる。」
俺は頭を抱えた。
昨日までは「混沌も調和にできる」なんてカッコつけたけど、
これはもう、混沌そのものだった。
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仮歌詞構成(地獄)
拳王パート:破壊と愛(鼓膜)
快晴パート:哲学と低俗
ミラパート:糖分と幻覚
ルリパート:恋と支配
月見パート:現実逃避と苦情
_____________________________________
「……ジャンル、何これ?」
「“情緒破壊系ポップス”ですわね。」
「やめろ、それっぽく言うな。」
「まぁ、これが私たちらしいよね!」
「明るい地獄、って感じ?」
「どんなジャンルだよ!!」
「……で、サビどうする?」
全員が黙った。
「あたしわかった!“LyR1c BeAt!!”って叫ぶ!!」
「それだけ?」
「語感で勝つ!!」
「雑ぅ!!」
「でも、勢い大事だしね!」
「……採用かよ。」
こうして、カオスの塊みたいな“自己紹介ソング”は
静かに(いや、むしろ騒がしく)動き出したのだった。
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