第4話 討伐軍

 勇者セレスティアリスと賢者エヴァンスが到着してから程なくして、村に討伐軍が到着した。

 森へ進軍するための中継地点にするためだ。


「勇者様!エヴァンス殿!あまり勝手な行動はつつしんでいただきたい!」


 堅そうな中年の騎士長が訴えるように声を上げる。


「貴方たちは世界の英雄なんですよ!?」


「まあまあ、いいじゃないか。魔王もいなくなって平和な世界になったんだしさ」


「ちょっとエヴァンス。私まで悪いみたいになったじゃないの」


 討伐軍は、軍とはいっても百名に満たない小部隊だった。

 だが、その内の二名は魔王を倒した勇者と賢者。

 突然の英雄たちの来訪に、村はお祭り騒ぎになっていた。


「あまり騒ぎにならないよう必要以上のアナウンスは控えていたのに。エヴァンス、貴方のせいよ」


 村一番の宿の部屋でセレスがため息をついた。

 まったく反省の色を見せないエヴァンスは言う。


「いいことじゃないか。平和な証拠だよ。勇者冥利に尽きるってものじゃない?」


「確かに平和な証拠ではあるわ。でも」


 セレスの表情がやや曇る。


「森の怪物が現れたとなると......」


「心配しすぎだよ。魔王を倒したからって、世界中の魔物が絶滅するわけじゃない。森の怪物がいたって何もおかしくはないよ」


「違うわ。そうじゃない」


「じゃあなに?」


「うまく言えないのだけど、なんだか胸騒ぎがするの」


「光の勇者の勘......てやつかい?」


 エヴァンスは、物思わしげな視線をセレスに向けた。


「別に気にしないで。もう寝るわ」


 セレスはエヴァンスの視線を振り払うように立ち上がり、部屋を出ていった。


「胸騒ぎ......か」


 エヴァンスは宙を見つめた。



 


 翌日。

 すでに討伐軍は鬱蒼うっそうとした森を進軍していた。

 陽が射していたにも関わらず辺りはぼんやり暗い。

 

「エヴァンス殿。本当にこんなやり方で大丈夫なのでしょうか」


 真面目で厳格な中年の騎士長が、先頭を歩くエヴァンスに確認する。


「あまりにバカ正直すぎるというか......」


「真正面から入ってまっすぐ進んでいく。心配かい?」


 エヴァンスは肩越しに何食わぬ顔で答える。

 今回の作戦は彼が立てたものだった。


「不安でないと言えば、嘘になります」

 

「そもそも作戦の立てようもないんだ。僕たちは森の怪物についてほぼ何も知らない。あの村の連中ですら、まことしやかな伝承しか知らないんだ。つまり、実態はまったくもって不明ってことだ」


「それはそうですが......」


「そんな状況でどう作戦を立てるのか」


 エヴァンスは横のセレスに目をやった。


「......私を討伐軍に加えた。勇者の私と賢者の貴方がいれば問題ない。そう言いたいんでしょう?」


 セレスはつれない表情だった。

 

「乗り気じゃないのかい?」


「そういうわけじゃない。貴方の判断がいつも正しいのも知っている。今までもそうだった。貴方がいなければ魔王も倒せなかったわ」


「これはこれは。天下の勇者様のお褒めに預かれて光栄です」


「ふざけないで」


 セレスはハァーッと吐息を吐いてから、表情を緩ませた。


「でも、エヴァンスと私がいれば大丈夫だと思うのは私も一緒よ」


 英雄ふたりのやり取りを後ろから眺めていた騎士長は、次第にひとり首肯しゅこうした。


「確かに、貴方方がいれば怖いもの無しですな。何せ魔王を倒した勇者と賢者だ。不安になる方がオカシイというものだ。あの戦争から一年。平和続きで気が萎えてしまっていたようです。申し訳ありませんでした」


 討伐軍は深い森を進んでいった。

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