ハイテクぼっち~遠隔支援を受けし俺は今日もキザな男(指示)~

エナジー分太郎(わけたろう)

プロローグ

 1944年。


 19歳の青年、三山みやま 倫之助りんのすけは徴兵されアメリカ軍との戦場にいた。


 夢は多くの人を助ける医者だった。


 裕福な家に生まれ勉学に励み、ついに帝国大学医学部生となったばかりの倫之助は、自宅に来た役人が差し出す赤い紙を呆然と眺めた。


 なぜ役人と家族みんなが笑顔で拍手しているのか分からなかった。


 現実感のないまますぐに戦場の島へ送られ…………。


 そして、敵からの奇襲を受けた。


 ガサッガササッ――――


 必死にジャングルの草木をかき分け逃げ続ける。


 行くあてなどない。


 部隊に戻っても敵前逃亡できっと殺される…………。


 ――数十分前、散開しつつジャングルを行軍中、倫之助は誰よりも早く周囲に潜む敵に気づいた。


 だが、彼は衝撃で声が出なかった。


 現人神の土地を侵さんとする悪鬼だと教えられた彼らは、緊張で強張った表情の彼らは、どう見ても人間だったから。


 それでも銃口はこちらを向いていて――


 パンッ、パパンッ――――


 倫之助は逃げた。


 一発も弾を撃たずに敵にも味方にも背を向けた。


 死ぬのも殺すのも恐ろしかった。


 逃げて逃げて……。


 ――――正面、木々の奥、人影。


「あ……」


 銃口はすでにこちらを向き――――






 ・・・・・・・・・・・






 ――――倫之助は砂浜に立っていた。


 あの若いアメリカ兵は彼を撃たなかった。


 緊張した表情でこちらに銃を向けつつも、拘束することもなく離れていった。


 ジャングルで部隊とはぐれたのだろうか。


 銃声を出したくなかったのだろうか。


 反撃や増援を恐れたのだろうか。


 それとも、自分と同じように――――


 分からない、それでも倫之助は確信した。


 ――死ぬのは悲しい、そう思うのはおれだけじゃない。


 きっと分かり合える、それなのに何かが邪魔をしている。


 ――変えたい……ああ、変えたいっ。


 ――この……世界をッ!


 踏み出す足は海へ浸かっていく。


 この歩みはもう逃げるためじゃない。


 進み続けるためだ、どこまでも先へ、先へ。


「おれは夢山だ、夢山倫之助だ」


 ――快晴のその日、夢山という男が生まれた。


 彼は止まらない。


 救世主に出会う、そのときまで。



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