カラスロッタ

「ねぇねぇ、放課後ゲームセンター行かない?」

「ゲームセンター? いいけど、プリクラでも撮るの?」

「ちょいきもがカルマ何とか? ってメダルゲームとコラボしてるんだって。遊んだら限定カードとか貰えるらしいよ」


 クラスの女子達が放課後にメダルゲームで遊ぼうという話題で盛り上がっており、それを寝たフリをしながら見ていた塔子は一緒に遊ぶ仲間が出来た、と喜ぶ事は勿論無く、苛立ちながら貧乏ゆすりをする。ちょいきものブームは依然として続き、ちょいきもなアバターが特徴のカルマロッタシリーズとコラボをする事になった結果ゲームセンターには新参者が蔓延るように。学校の近くにあるゲームセンターは良太達が遊んでいる場所以外にもあり、更にメダルゲームコーナーに行く女子生徒は基本的にいないため、今まで塔子は同性の視線を気にすることなく遊ぶ事が出来ていた。しかし今はメダルゲームコーナーには複数人で遊ぶ女子生徒達が多く、そんな状況で塔子は一人で遊ぶ事は出来ず良太を誘っても二人で遊んでいる所を見られて色々と噂をされるのが嫌だと、ゲームセンターになかなか行けない日々を過ごしていたのだ。


「私の聖域も汚されちゃったわ……良太の気持ち、今なら凄くわかる」

「地元とゲームセンターを一緒にするのはちょっと違う気がするけど……塔子さんも客だし」


 掃除をしながら同じ班の良太に愚痴を零す塔子と、第二次キャンプブームが落ち着いたことで平穏を取り戻した良太。この日もクラスの一軍女子達が塔子のホームグラウンドで遊ぶ事が判明しており、塔子は帰宅中に遭遇するのも嫌だとスマートフォンで家までの別ルートを検索し始める。しかし実際に塔子が地図で眺めているのは、少し離れた場所にあるゲームセンター。


「……そうよ! こういう時のためのサブよ! ちょっと僻地にあるし、設置台調べたらカルマロッタは無いから女子は来ないはずよ!」

「へー、こんな所にもあるんだ。でも結構遠くない? バスとかも通って無さそうだし、片道歩いて1時間? 坂道もそこそこありそうだし、レンタル自転車使ってもきつそう」

「今の私はメダルゲーム欲に飢えているの。キャンプもしたし、1時間歩くくらい余裕よ。そうと決まればさっさと掃除を終わらせて行くわよ! 良太も最近ゲームセンターに行けて無くてうずうずしてるでしょ?」

「ごめん、割と友達と遊んでる。今日も実は女子達に、『小波君ってメダルゲームとか結構やってるんでしょ? カルマ何とかってやつの遊び方教えて欲しいんだけど』って誘われてて……わ、わかった、断るし行くから落ち葉をバラまかないで」


 学校からも塔子の家からも近くは無く、塔子も行動範囲のゲームセンターをチェックする為に一度行ったきりのゲームセンターで遊ぼうと提案するも、塔子以外とも交流のある良太はそこまでして遠くのゲームセンターに行きたいという熱は湧かず、更には地雷を踏んでしまい頑張って掃き集めた落ち葉を塔子に滅茶苦茶にされる危機に陥ってしまう。『誘った女子はひょっとして良太に気があるのでは?』という焦りから道中は積極的に喋る塔子と共に散歩を行う事1時間。クラスの女子達はまず来ないであろうゲームセンターに二人は到着する。


「小さいと思ってたけど、結構色んなのがあるんだね。でもカルマロッタは無いのかぁ。俺も限定カードが欲しかったんだけど」

「カルマロッタは無いけれど、同じシリーズのカラスロッタならあるわよ。ユーザーデータは使い回し出来るし、こっちで遊んでも限定カードは手に入るわ。寧ろ限定カードって先着順だったはずだから、人の少ないこっちの方が手に入りやすいでしょうね。クラスの女子共は素人だからカルマロッタだけが対象だと思ってるんでしょうけど。……ふぅ、疲れた。はいお金。私の分もメダル借りてきて。飲み物とアイスも」


 一通り回って普段通っているゲームセンターとの違いを確かめようとする良太であるが、1時間歩き続けて実は足が悲鳴を上げている塔子は早く座りたいと、精一杯平気なフリをしてメダルゲームコーナーに入ってすぐの場所にあったカラスロッタに座る。良太がメダルカップや食事を持って戻って来る頃には、中央のボール抽選機は20球目のボールを打ち出していた。


「20球!? カルマロッタは8球だったのに、随分たくさん抽選するんだね。これならビンゴも簡単なんじゃない?」

「それがそうも行かないのよ。カラスロッタは4球目から確率でゲームが終わっちゃうの。うまく行けば最大で40球も抽選出来るんだけど、平均で言えばカルマロッタと大差無いわ。遊んでない時に継続しまくってるのを見るのってストレスなのよね……ただでさえ終わらないと遊べないのに。カルマロッタに比べてイマイチ人気が無い理由だと思うわ」


 良太から自分の分のメダルを受け取るや否や投入し、無駄だとはわかっていても今からでもこのゲームに参加したいとベットボタンを連打する塔子。その後もゲームは無駄に続き、誰もやっていないロング継続ゲームが終わってようやく二人ともベットが出来るようになったのだが、お互いベットボタンを押す手が止まる。


「……」

「わかる。わかるわよ良太。『こんなに続いた次のゲームは多分すぐに終わる』と思ってるんでしょう? そう、確率は収束するの。いくらメダルゲーム欲に飢えているからってそんな軽率な事はしないわ。ここはルックと行きましょう」


 メダルゲームをやっているうちに自然とオカルト思考に染まってしまった二人は、このゲームはすぐに終わると確信して見送る事に。しかしこのゲームも20球とそこそこ継続してしまい、二人はストレスからジュースやアイスをやけ食いしながら何もできない時間を満喫する。


「ああああああ4球終了しやがったあああああ」

「赤に入ったら高額配当だったのに……」


 その後も二人はゲームがすぐに終わってしまい嘆いたり、長続きした時には既に勝利が確定している状況なため余裕を持ってカルマを愛でたり持ち上げて落としたりと喜びも悲しみも共有しながら遊んで行く。そんな状況に塔子は違和感を覚えており、それが普段とは違う場所で遊んでいるからでは無い事にやがて気づく。


「(そっか。カラスロッタってすぐ終わったらどっちも負けるし、長く続いたらどっちも勝つから、あんまり勝ち負けにならないんだ)」


 今までは隣り合った席でどちらがメダルを増やせるか、どちらがジャックポットを当てるかで良太に一方的に勝負を挑みながら遊んでいた塔子であるが、カラスロッタはその特性上、どちらかが勝ってどちらかが負けるという展開になりにくいため一緒に遊んでいるような感覚になる。過去の悲劇から勝ち負けに拘り続けて来た塔子であったが、一緒に遊んで感情を分かち合うのも楽しい事なのだと、良太と遊んでいるうちに自分が変わった事を認めるのであった。お互い限定カードを貰うまで遊び、その数日後に教室でまたも女子達がメダルゲームの話をし始めるのを塔子はこっそりと聞く。


「またカルマ何とかやらない?」

「えー、限定カード結局取れなかったじゃん。ルールもよく分からなかったし」

「でももうすぐ限定カードの在庫が無くなるらしいし、これが最後のチャンスかも。でもルールはよく分かんないよね。誰か詳しい人いないかなぁ」


 限定カードを手に入れるために再度塔子のホームグラウンドで遊ぼうという話になる女子達の近くに向かう塔子。しかしどんな言葉を使えば仲良くも無いクラスメイトに『自分が詳しいから一緒に遊ぼう』と伝えてグッドコミュニケーションを取れるのかが塔子にはわからないし、メダルゲームでリスクを回避し続けて来たためか当たって砕けろの精神で勇気を出す事も出来ない。結局塔子は自分の席に戻り、女子達は折角だし男子と一緒に遊ぼうと良太達のグループに話しかけ始める。


「(久しぶりね南無子。やっぱり私は変われないみたい。もう私は手遅れなのかしらね?)」


 机に突っ伏し、良太が他の女子達と一緒にメダルゲームで遊ぶのかどうかを聞きたくないと耳も塞ぎ、良太との仲が進展してからは出て来なかったイマジナリーフレンドを登場させる。その日の放課後、良太は女子達とはゲームセンターに行かないどころか、『少し離れた場所のゲームセンターなら限定カードの在庫がたっぷりあるから皆でタクシーに乗って行くといいよ』と助言して塔子のホームグラウンドから遠ざけており代わりに塔子を誘おうとしたのだが、既に塔子は良太が他の女子達と一緒に行く光景を見たくないと目に涙を浮かべながらダッシュで教室を出ていたのであった。





※あとがき


元ネタ……コナミ『カラコロッタ』


球数が固定であるアニマロッタと違い、

球数が不定なため1ゲームにかかる時間が非常にブレる。

また、アニマロッタの穴はプレイヤーから割と遠くにありキラキラ光っているが、

カラコロッタの穴は近い上に単色で表現しているため、汚れが非常に目立つ。

潔癖症にはきつい。

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