なみー漁
キャンプアニメの放送が終わりブームも落ち着いていたキャンプであるが、その二期が放送されたり、芸能人が動画サイトでキャンプ動画をこぞってあげるようになった結果、再び全国的にキャンプがブームに。
『ヴァイキング西浦の、海賊キャンプ~! 今回はここ、比呂島県初鹿市市から電車で数十分の……』
他人のキャンプを見て何が面白いんだとおススメにあがる動画を退屈そうに見ていた良太は動画サイトを閉じ、代わりにテレビの電源をつける。キャンプのブームからは逃れられないらしく、丁度キャンプの番組が始まっていたためチャンネルを変えようとする良太であったが、テレビの中の光景に既視感を覚える。それもそのはず、テレビで紹介していたキャンプ地は良太の地元だったからだ。
『ここ本当に自然が豊かで、まさに隠れキャンプスポットですね! 是非皆さんも一度行って見てください!』
滅多にスポットライトの当たることの無い良太の地元を芸能人が好意的に紹介するという展開に、悪い気はしないなと微笑みながら番組を見る良太。しかしその二週間後、良太はその番組に憎悪を抱くことになる。
「ねぇねぇ小波君、小波君って央野村に住んでるんだよね?」
「……そうだけど」
ある日の昼休憩中、クラスの男子とは良好な関係を築いてはいるものの、女子は塔子を除きそれほどコミュニケーションを取っていない良太にクラスの女子が話しかけ、塔子はそれをムッとした表情で眺める。
「私達、週末に央野にキャンプに行こうと思ってるんだけど、おススメの場所とかある?」
「……駅についたら、役場がおススメのキャンプ場所を記した地図があるから。それを見たら?」
週末に良太の地元へキャンプに行くからおススメの場所を教えて欲しいという、展開によっては女子達のキャンプに同行する可能性もある、男子にとっては夢のような質問なのだが、良太は冷たい目をしながら女子達をあしらう。週末のキャンプの相談に戻る女子達を一瞥した後、良太は自分の席で大きくため息をついた。
「そんな態度じゃ、女子にはモテないわよ?」
「……早くキャンプブーム終わってくれないかな」
「こないだのテレビ番組見たわよ。あんな田舎を魅力的に紹介するなんて、流石はテレビね」
塔子が自分以外の女子に冷たい態度を取った良太にニッコリしながら話しかけると、良太はキャンプの話をしているクラスメイトをつまらなそうに眺めながらブームの終焉を願う。テレビで紹介された事により、良太の地元にはキャンパー達が一気になだれ込むように。しかし地元の人間にとってそれは良いことばかりでは無い。
「役場は観光客がたくさん来るって盛り上がってるけど、地元の人からしたらいい迷惑なんだよ。別にウチは観光で食ってる村じゃないのにさ……いつもだったら一人でのんびり釣りを楽しめたのに、今じゃ知らない人だらけ。しかもマナーも悪い。散らばったゴミの片づけは結局地元の人がやるんだよ? 駅前のコンビニも人が増えたから仕事がどんどん忙しくなってるのに、時給は上がらないし……友達は休日は俺の地元で遊ぼうぜなんて言うけど、俺はもう休日は地元にいたくないんだよ。部屋の外から知らない人達が騒ぐ声が聞こえてきてさ、のんびり休む事も出来やしない。泊めてくれない?」
「自分の領域に知らない人が土足で踏み込んで来るのは嫌よね。同情するわ。流石に泊めるのは難しいけれど、私の部屋でのんびりだらだらしましょう」
突然の人の流入にノイローゼになってしまい、休日は地元にいたくないと、異性である塔子の家に泊めてくれと頼む程に滅入ってしまった良太。塔子もメダルゲームで遊ぼうと思っていたら新規の学生集団が騒いでいて不快な気持ちになったりと似た経験は何度かしていたため、同情心から良太を自分の領域である部屋に招く。週末になり、良太はキャンパー達で溢れかえる地元から逃げるように電車に乗り、塔子の住む街へと向かう。駅前では既に塔子が、良太の地元へと向かうために駅へと入っていくミーハーなキャンパー達を見下すような視線で眺めながら待っていた。
「何だか都会に憧れて田舎を捨てた人になった気分だよ。そりゃこっちの方が遊ぶ場所はたくさんあるけど、別に地元も嫌いじゃないのになぁ」
「良太が地元じゃ出来ない遊びをするためにこっちに来るように、都会の人も都会じゃ出来ない遊びをするために田舎に行くのよ。この前のキャンプに憧れる私もそうだったわ。まぁ、一通りやって満足したけど。……そういえば最初のキャンプブームの時、俺の地元なら空いてるからおススメだよって友達誘って無かった?」
「その話は無かったことに。……ベッドで昼寝していい?」
「!?……今回だけよ」
塔子の部屋でダラダラとくつろぎながら休日を過ごし、日が暮れたあたりで帰るついでに二人でゲームセンターに向かう。最近釣りが出来ていないと言う良太のために、塔子が紹介したのはなみー漁という投網漁を題材にしたメダルゲームだった。
「こっちのレバーで狙いを定めて、メダルを投入すると網を発射するの。釣りみたいにメダル複数枚消費して強い竿を使うとかそういう概念は無いから、大物を狙う時は大量に投入する必要があるわ」
「投網はやったことないから新鮮だなぁ、何だかシューティングゲームみたい。あ、全滅させたらミニゲームになった」
「こっちは魚のクイズが始まったわ。……助けて、どっちがヒラメ?」
網を投げて魚を捕まえ、一定量捕まえることでボーナスゲームに突入するというゲーム性は釣りもシューティングも好きな良太にとっては最高の組み合わせであり、自陣にやってくる魚群を次々と捕らえたり、時折発生する魚に関するクイズに挑戦したりと、地元の事を忘れて満喫する。しばらくして良太はジャックポットチャンスに突入するのだが、それまで良太と塔子しか遊んでいなかった機種にぞろぞろと人が集まってくる。
「……?」
「あー……ジャックポットチャンス中に、周囲を泳いでる鯛がいるでしょ? これが結構狙い目だから、ジャックポットチャンスの時だけ遊ぶ人が結構いるの。俗に言う鯛エナって言うんだけど……」
無言で席に座りメダルを投入して海を泳ぐ鯛を狙いだす、良太の知り合いでも何でもない人達。ジャックポットチャンスが終わると同時にその人達は席を離れて別の機種で遊び始めるのだが、良太は非常に険しい表情でその人達を睨みつけていた。
「……俺のジャックポットチャンスなのに。一緒に遊んでた塔子さんはともかくさぁ、あいつらずっと別のゲームで遊んでたじゃん。何だか地元を思い返すよ。今まで皆して興味ないみたいな事言ってた癖に、ちょっと話題になると集まって来てさ。あ、あいつメダルが無くなったからってカップを置いたまま帰っちゃった。こっちは椅子がぐちゃぐちゃのままだ……はぁ、そういえば明日はキャンパー達の出したゴミの片づけがあるんだった。バーベキューの後始末とか大変なんだよ……」
美味しいとこだけ頂こうとする、マナーも悪いメダルゲーマー達に怒りながら、椅子を戻したり、カップを返したりと迷惑客の後始末が身体に染みついている良太。
「そうね。鯛エナは、嫌われる、わよね。……うん、最低の、行為だわ……別に私も良太の地元に行きたくくなったとか、そんなんじゃないけど、ゴミの片づけ手伝ってあげるわ」
「本当? 助かるよ」
そんな良太に同情する塔子であるが、彼女の頭の中ではかつてこのメダルゲームで遊んだ時の思い出が駆け巡り苦い表情になる。彼女自身かつてはずっと鯛エナ行為を繰り返してメダルを稼いでおり、その罪悪感からゴミの片づけの手伝いを申し出るのだった。
※あとがき
元ネタ……セガ『アミー漁』
どちらかと言うとシューティングゲーム的な機種。
まだメダルバンクと連動して預けや引き出しが出来ず、
更にクレジットという概念も無く、プッシャーでは無いので当たりがそのまま配当となり、
高配当が出た場合は凄まじい勢いでメダルが溢れる困りもの。
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