第5話



 「はい、どうぞ」


 「ありがと」



 手渡された氷おにぎりを手に取るなり、はむっとそれを頬張った。


 何度見ても、僕には違いがわからない。


 ソフトクリームとかかき氷だと、同じ「アイス」でも全然違うって思うよ?


 でも、氷おにぎりって…



 ちなみに「氷おにぎり」っていうのは、ただの氷だ。


 おにぎりを凍らせてるっていうのをイメージする人が多いんじゃないだろうか?


 そもそも氷おにぎりっていうのが世間的に存在するのかどうかも怪しいんだけど、友達に聞いたら、大抵は「凍らせたおにぎり」っていう答えが返ってくる。


 まあ、そりゃそうだよね。


 「おにぎり」なんだから、おにぎりの要素がそこに含まれていないといけないわけで。



 「ねえ、あとで一緒に水族館に行かない?」


 「やだね」


 「なんで?」


 「この前も行ったばっかじゃん。ただでさえお金がかかるのに」



 彼女の目的はわかっている。


 僕たちが住んでいる静岡市には、大学が経営している水族館がある。


 『東洋大学海洋科学博物館』っていうんだけど、体長2mを超えるシロワニを始め、約50種1000個体以上の魚たちを展示している場所だ。


 見る場所によって「サンゴ礁」「海藻」「砂底」「岩礁」の4つの海中景観に分かれ、スロープを上がると水槽上層を、階段を下りるとトンネルの窓から水槽内を見上げることができる。



 「たった750円じゃん」


 「750円も、ね?」


 「ケチくさい男だねぇ」



 …あのな



 750円もあったら一食分が賄えるじゃないか。


 ただでさえ生活費に困ってるのに、水族館でお金を払うなんてもってのほかだ。


 ちゃんとした目的があるのはわかってるよ?


 でも生憎、今は他に気を回せるほどの余裕がなくてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る