帰路 4
神社を囲う様に大きな杉の木と田んぼの間の細い道を車は進む。
不気味な緊張感が張り詰めた車内のふたりはできるだけ何も考えまいと必死であった。
豊は定期的にナビを確認して迷いなく進む。
その道は工場らしき建物に続いていた。
しかし、奇妙なことにその道は工場へと続いているだけで、その門はUターンも許さないぞと言わんばかりに門が閉じてある。
『目的地周辺です。音声案内を終了します』
「は?シバくぞ」
軽快に案内していたそのナビは急に裏切る様にふたりを置き去りにしたのだ。
豊は道の真ん中で車をパーキングにして、ナビの上を拳で叩いた。
「ねぇ。ナビに道が載ってないよ」
翔は異変に気づく。
そのナビには車を指す矢印が白地図に浮かんでいるだけだった。
「エンジンを付け直す」
車のエンジンを止めてナビを再起動させようと豊は考えた。しかし、今度はエンジンがうまく点かない。
「くそっ。どうなってるんだ」
躍起になる豊をよそ目にあたりの夕焼けはだんだんと夕闇に変わる。
翔と豊は緊張のあまり額から汗が滲む。
翔は視界の上の方で何かが動くのに気づいた。
「ねえ、父さん」
翔が目を前に向けながら豊の袖を引っ張る。
翔が一度引っ張っても豊は反応しなかったので、二度目は思いっきり引っ張った。
「なんだよ」
豊は翔の視線の方に目をやる。
豊はその奇妙を目にして胸のあたりがギュッと締め付けられた。
工場を封鎖していた両開きの鉄の門の錠がポトッと外れ、ゆっくりゆっくり開いていく。
そしてその門の奥からは異様な雰囲気を纏う少女がスーッとこちらに寄ってくる。
赤いドレスは何の赤色か分からないほど錆びついた色であった。
足を動かさずに寄ってくるそれはあまりにも気持ちが悪く、首を吊るされた少女の意思で進むではなく首吊り紐が少女を引き摺る様に見えた。
ふたりは焦り叫ぶ。
恐怖のあまり涙と鼻水でズルズルの翔は縋るようにシートベルトを握り、豊は何度も何度もエンジンをかけ直す。
あっという間にその少女が目の前まで引き摺られ、車体に生肉を叩きつけるようにぶつかった。
ドレスに染み込んだ赤がフロントガラスで弾ける。
それと同時にエンジンは点き、豊は見事な手捌きでギアをRに差し込んだ。
豊は視線をミラーに向けて迅速かつ慎重に引き下がる。
少しでもハンドルを切り違えたら即アウトの緊張感の中、蛇行する細い道をバックしながら少女に追い付かれないように引き下がる。
バックでアクセルを踏み込み、安定しないハンドル捌きで必死に逃げる。
豊はギリギリターンができそうな場所を見つけると、華麗にターンを決める。
進行方向に標準を向けると今度はDに差し込み、思い切りアクセルを踏み込んだ。
バックミラーに映る少女はどんどん小さくなる。
ふたりは来た道をなぞり、その少女から逃げる事だけを考えた。
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