公爵夫人は居酒屋の女将
アサルダ
第1話 よし、逃げるか…
その日は結婚式を行った後だった。
そしてその夜に初夜を迎えるのだ。
「ようやく、あの人と…」と言いながらバスローブを一度何処かほころびがないか自分の体臭が汗くさくないか確認したりと何度もしてからその相手である妻の部屋の前に立った。
そして、静かにノックを鳴らした。
だが、反応がなかった。
妻の恥ずかしがる音や布の擦れる音とか何一つ。
公爵は念のためもう一回ノックを鳴らしてみるがまた反応がなかった。
それで、意を決してドアを開けることにした。
幸いドアには鍵が掛かってなく、抵抗もなく開けることが出来た。
そしてそこにあったのは、綺麗なままのベットとメイドが置いたであろう度数が少ないワインとコップが二つ。
さらに目が入ったのは綺麗に畳み込まれたネグリジェだった。
今夜、ここで一夜を共にするはずの彼女が何処にもいなかった。
「嘘……だろ…」
彼女とは結婚した当初から交流はあった。
でも会話として何か彼女に愛想を尽かされるような事をしてしまったのだろかと思いながら彼はネグリジェを掴んで愛おしそうに抱き締めた。
「リーフェ……何処に行ってしまったんだ…」
公爵は結婚式の事を思い出した。
その日はとても天気が良くて晴れ晴れとしていた。
まるで恋の女神様が二人の事を祝福してくれるような物だった。
二人は結婚式に相応しい白い衣装を身に付けていた。
女性はウェディングドレス、男性はタキシードのような優雅な衣装を。
皆の前で緊張してるみたいでリーフェは少し落ち着かない様子だった。
だから、その緊張をほどくために気さくな声で話しかけた。
「そんなに緊張しなくて良い。皆君の事を見てる訳じゃない。互いに見てるんだよ男性は女性を。女性は男性をって…」
そうすると、リーフェは緊張の代わりにかわいい嫉妬を見せてくれた。
「それって貴方も他の女性を見るってことですか?」
今思えばさっきの彼女の言葉は演技だったのではとふと考えてしまった。
表情は頬を赤らめていたのだろうか。
ちゃんと笑ってくれているのだろうか。
今となってはそれが分からない。
それから、結婚式が行われ皆の前で祝福の誓いを立て、指輪の交換もして口付けも交わした。
その時の彼女は本当に幸せそうな表情をしていたキスをする前は。
現実に戻ってくると目の前には真っ暗になった空間が広がっていた。
(深夜になってしまったのだろうか…)と思ってもう一度いるはずでろうベッドの方に振り返ってみると今度はちゃんと彼女が静かな寝息をしながら寝ていた。
その様子を見た瞬間、驚きと帰ってきてくれた嬉しさの複雑な感情が芽生えてしまった。
(よかった…)と思うけれど、何処か晴れない気持ちがあった。
(確かに貴女と結婚する条件にあったな…)
こんなことになってしまったのは妻であるレーフェにある。
レーフェの家は子爵の家なのだが彼女の他に姉が一人いるのだがその人はスキルなど持たない一人間の一人だった。
この世界ではスキルを付与される人間と魔法を付与される人間に分かれていた。
その両方を扱える人間はほんの僅かなのだが`レーフェは両方を扱える人間なのだが魔法が生活魔法しか使えずだから彼女の力を姉の力として利用し始めたのだ。
だから、世間では姉が有能で妹が無能と言われ始めたのだ。
それから世間が定着して数十年後、そんな時レーフェにある転機が訪れたのだ。
それはレーフェの本人とは違う記憶を思い出してしまったこと。
「あれ?私、何で生きて…」
それが前世の記憶を思い出した最初の言葉だった。
それから彼女の前世の夢として自分の居酒屋を立ち上げて働いて賑やかに生きてみたかったことでした。
しかし、夢半ばで癌を患ってしまいそのまま帰らぬ人になり、現在に至る。
「それしても酷い瞬間ね」と言いながら自分の状況を考え、これからの振る舞いとしてどうしようかと考えた時にふと窓の方を見て思わずこう呟いたのだ。
「よし、逃げるか…この人達のことなんかどうなっても知らないし!」
そう言った後の行動は早かった。
数あるドレスの中で高価そうなものだけを選び、自分のスーツケースにシワが付かないように慎重に畳んでしまい、その他にもアクセサリーをいくつか選び傷を付けないように布に包んで入れておいた。
これで準備完了としたときに、次は何処にしようかと考えたときふと、とある海の見える辺境貿易都市を思い出してそれで前世で叶えられなかったことをやろうと考えた。
それで一番の望みとしてはこの国の一番の酒と料理を確認すること。
「ならば善は急げだよね!」
ただいまの時刻、夜の半ば居酒屋が空いてるのが望みの良い時間。
レーフェの家族は今。自慢話のためのパーティーに出掛けていて今夜は使用人しかいない。
「お金は……」と考えて彼女はある場所を思い出してスキルを使用した。
レーフェのスキルは何処にでも行けるテレポート。
馬車要らずのため姉はこれを強要し自分の力としたけど、今回は馬車で行きたいと我が儘を言って勝手に用意して向かっていった。
なら帰りはどうするかと言うと『自分の足で歩け』です。
「さて、金庫は書斎かな?」と呟いてからそこへ向かって飛んで金庫が隠されてるであろう本棚に近づいた。
「大抵の人間はこういうところに隠したがると思うんだけど…」と小声で呟きながら手応えのある本を一冊ずつ確認していった。
そして、少し厚めの紫色で金縁の本に手を掛けて後ろへ傾けた時カチャンと音がなった。
すると、そこだけが大きな棚となっていてそれを開けてみると大きめの金庫が顔を出した。
「ビンゴ!」
後は鍵明けなのだがここは生活魔法の一つ鍵開け使った。
使用すれば使用するほど技術レベルが上がりドアの鍵から厳重な金庫を開けるなんて簡単なことだ。
「アンロック!」って言いながら人差し指を金庫の方に向けて差した。
すると、何の手応えもなくガチャっと開く音がした。
それを開けてみると重要な書類と思しき物と金貨が大量に入ってるであろう袋が入っていた。
それを見て「貴族になると自分の身を守ろうと保身のために横領するのね…」と呟いてから袋から二十枚ほど取ってから横領した記録の一枚を『
「奴隷に扱われたお陰でレベルが上がってるのよね…もしかして記憶を取り戻さなくても勝手にやってたかな?」と思いながら自分の過去の記憶にこんな台詞が吐いていたのを思い出した。
それは、いつものように姉にこき使われ暴力を振るわれた時に「いつか…後悔させてやる」と小声で吐いていた。
(今思うと元の私も虎視眈々としていたな…)と苦笑いを浮かびながら盗った物を盗ったから後は元の棚に戻してからテレポートを使って自室に戻った。
彼女の部屋は所謂侍女部屋と言われる場所に与えられていた。
だから、少し小綺麗なドレスなどが置いてあったのはその為である。
「それっぽい市民服に着替えて…」と言いながら今自分が着ている服を魔法で変えた。
これは生活魔法の一つで『
(普通の魔法何だけど一々呪文が
動きやすそうな青いワンピースだけどデザインはシンプルにし、そして使い古しを出すためにわざと付きやすいシワを付けて、さらに足元は靴下を穿かず少し傷が付いた白のパンプスを穿いた純情な女性っぽいコーディネートにした。
「これならあまり怪しまれないよね?」と言いながら自分の服装に確認して後は自分の顔について確認するため備え付けの少しボロめの鏡の前に立った。
そこに映っているのは美しい金髪の髪を持ったキメの細かい美しい女性の顔だった。
(相変わらず……綺麗よね……)と自分でもうっとりしてしまうほど美しいかった。
「顔は変えれないのよね…」と言いながら考えた末は自分の印象を変えるしかないなとだけだった。
「捨てられた令嬢なら誰か拾ってくれるのかな…」とちょっとした望みを言葉を溢してから鏡から離れた。
「さてまずは…」と言いながらスーツケースとコピーした書類を持って次の行動先を選んでスキルを起動し、自分の部屋から飛んでいった。
続く
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