第93話

 フレイとレイヤは背丈や髪色や瞳の色、そばかすの浮かんだ頬やその顔立ちまでもがそっくりで、違うところと言えば、レイヤの方が髪が長く、両耳の後ろでそれぞれ束ねていると言うことくらいだ。


「双子?」


 フレイは少々不満げにロキの問いに首を振った。


「なにをいうか、レイヤと私ではいくつも歳が離れているぞ、バカなことを言うでない」


 年頃も全く同じにみえるのだが、ロキはそのことについてそれ以上言及しないことにした。


「ねえねえ! あなたたちのお名前は何て言うのかしらっ?」


 レイヤは踊るように、ロキとフェンの周りをくるくる周りそう尋ねた。そのレイヤの後をグリンがフゴフゴ楽しげに追いかけている。


「俺はロキ、こっちがフェン」


 ロキが告げると、フレイとレイヤは同時にピタリと動きを止めた。


「ロキ?」


 フレイに名を呼ばれ、ロキは戸惑いながら頷いた。


「あ、そうだけど……」


 一瞬、背中がヒヤリとした。

 二人の和やかな調子に油断して、安易に名乗ったのはまずかったかもしれない。

 彼らがオーディン側の人間で、オメガの名前を知っている可能性を考えるべきだった。


「ひどい名前だな」

「ほんとに、ひどい名前」


 フレイとレイヤは口々に行った。その表情には憐れむように眉を寄せている。


「ひ、ひどい? そうかな」


 そんなことを言われたのが初めてで、ロキは怒りを感じるよりも、なんだか切ない気持ちになった。


「ああ、ひどいぞ、お前の親はどんなつもりでそのような名をつけたんだ」


 フレイは容赦なく言った。


「ひどいなんて、そんなことないよ。俺は素敵な名前だと思うけど」


 そう言いながら、フェンはロキの体に背後から抱きつき、慰めるように肩に顎を乗せてくる。少なからず気落ちしたロキの様子に気がついたようだ。


「しかし、ロキはこのアースガルドにおいては大罪人の名前だぞ」

「そうよ、その名前をきいて、気分の良くなる人はいないわ」


 随分な言いようだ。


「大罪人って……いったい何をした人なんだ?」


 ロキは尋ねた。

 しかし、フレイはそれに応えず、5本の指を広げた手のひらをピタリとロキの眼前に掲げた。


「その前に、ニーズヘッグの治療が先だ」


 そう言って頷くと、フレイは背中を逸らして後ろ手を組み、奥の部屋へと下がっていく。


「ああ、レイヤ、そいつらを風呂に入れてやってくれ、ついでにそのドラゴンの涎臭い衣服を着替えさせるんだ」


 去り際に、フレイはそう言って鼻を摘んだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る