巨人族の宴

第66話

 ◇









 ヨトの巨人族たちは、ヨトの街から少し離れた場所にある岩山を削り、入り組んだ横穴を作っていた。

 氷のように青白い壁は、白々とした光を放っていて、なぜか穴の中だと言うのに曇天の朝ほどの明るさだ。

 雪の吹き付ける外よりも中は暖かい。

 入り口から真っ直ぐに岩山を貫くように一本大きな道があり、ヴァクはロキを担いだまま、他の巨人族らを引き連れてそこを真っ直ぐに進んでいく。

 見上げるとかなりの高さに天井があった。壁や天井は崩れないようにしっかりと補強され、床も踏み固められている。

 今進んでいる大きな道の壁には、幾つも階層を重ねて横穴があって、そこから多くの巨人族たちがこちらを見下ろしていた。その中には何人かの人間の女性の姿も見える。

 一つの街がこの穴の中にあると言ってもいいほどの規模だ。

 おそらくここができたのは最近ではない。ヨトに朝が来なくなり、冬に包まれるようになって、巨人族たちはあの崩れた街からこの穴の中に街を移し替えたのかもしれない。

 そこからさらに奥に入り込み、細い通路を進んでいくと鉄を組んだ牢があった。

 ヴァクはその中に担いでいたロキを放り込むと、見張りに何やら言いつけ立ち去ってしまった。

 牢の中には申し訳程度に敷き詰められた藁と、壁には垂れ下がった鎖があった。

 転がされた床は硬くて冷たい。

 ロキは手足を縛られたまま、虫のように地面を這った。


「おい! 開けろっ‼︎」


 ロキが叫んでも、松明の下に立つ見張り番は、槍を片手に直立したままチラリと視線を向けるだけだ。

 ロキは体をしならせ、鉄格子に肩や足を打ち当てた。


「開けろっ! さっきの場所に俺を戻せっ! ふざけんなくそやろう! だせっ! だせよっ! くそ!」


 何度も叫び続けると、ついに見張り番が眉を歪めて舌打ちをした。

 腰に垂らした鍵の束を手にしてこちらに歩み寄ってくる。格子に下がった錠前をもちあげたので、まさか出してくれるのかと思いきや、とんだ勘違いだった。

 見張り番は扉を開くと間髪入れずにロキの腹を蹴り上げた。


「うぐっ!」


 ロキはうめき声を上げて体をくの字に折り曲げる。

 しばらく喋れないまま唸っていると、ぐいと前髪を掴まれた。

 見張り番はロキの口の中に布を押し込むと「静かにしてろ」と言い残して、また扉を閉じて鍵をかけ、元の立ち位置に何事もなかったかのように戻っていった。

 毒ずくこともできないまま、ロキは冷たい床に転がっている。

 そこからまた暫く経った。

 誰かの足音が聞こえ、ロキは閉じていた目を開く。ヴァクが戻ってきたようだ。ヴァクが視線だけで合図を送ると、見張り番はまた鍵を取り出し牢の扉を開いた。


「なんだこりゃ」


 ヴァクは横たわったままだったロキの胸ぐらを掴むと、口に押し込まれた布を指差し見張り番に視線を上げた。


「騒いでうるさかったんで」


 その答えに、ヴァクは舌打ちを返す。


「躾は俺がする。勝手なことすんな」


 そう言ってヴァクがしっしと手を払う仕草をすると、見張り番は僅かに頭を下げて立ち去っていった。

 それを確認した後、ヴァクは、ロキの口に押し込められた布を引き抜き放り投げた。




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