おいしいものにっき

続セ廻(つづくせかい)

第1話 喫茶店でホットケーキとアイスコーヒー

 日本は世界でも有数のコーヒー消費国らしい。

 私自身はコーヒーと紅茶どちらが好きかと言われたら、単品で飲むなら紅茶、甘い物と飲むならコーヒーのような気がする。

 ブラックコーヒーの良さはわからないし、家で淹れるコーヒーは近くの喫茶店で飲むコーヒーと大違いだなぁとしんみり。


 というわけで、美味しいコーヒーとホットケーキを出してくれる喫茶店がある。そこのホットケーキがおいしい。

 多分チェーン店なのだが、キッチンには銅の鉄板があり、仕上がりは外カリッの中ふわっ。絶妙なしっとり感で、家で焼くホットケーキの何となくぼそぼそ生焼け感は皆無。

 運ばれてくる時に既に甘香ばしい香りがする。小麦粉と砂糖(多分白砂糖じゃない)の絶妙な香り。どら焼きにかぶりつこうとする直前に感じる皮の香りとよく似ている。キャラメルとも違う、クレープとも違う。喫茶店のホットケーキの香り。


 目の前に運ばれる白い皿に、きつね色いやいやゴールデンブラウンの艶やかなホットケーキが、二枚。どや。

 添えられたバターをそっと真ん中に挟んで、焼きたてのホットケーキに染みるのを待つ。その間に、先に運ばれていたコーヒーにシロップとミルクを入れてチビチビ……。濃いコーヒーだなぁ、と思う。麦茶とかのように一気に飲むものでは無く、ゆっくりチマチマ。

 コーヒーを飲んでいるとき、時間を舌の上で味わうようなきもちになる。

 今日はアイスコーヒー。グラスに浮かんだ氷をストローで掻き混ぜれば風鈴のような澄んだ音がした。


 さて、バターが程良く溶けたところでナイフを手に取る。

 お子様にはちょっと重たい銀のカトラリー。

 銅板で焼かれた表面はナイフをスッと受け入れて、しかし生地はへたることもなく厚みを維持して美しいクリーム色の断面を覗かせる。

 よく見てみよう。

 1ミリほどのきめ細かな焼き目。中心から端まで均一な膜を作っている。この膜が、まるでシルクの一枚布のように一切の継ぎ目がない。

 家庭で再現が難しいのがこの焼き目だろう。火が一気に均一に入らないとこうはならないだろうから。

 カットした断面を観察すると、焼き目から霜柱のように生地が気泡を抱えて立ち上がっていた。サクふわの「ふわ」を担当するのがこの気泡達。しかもここにバターとメープルシロップが染み込んで「じゅわっ」も奏でてくれるのだからえらいことだ。


 ところで、ホットケーキの切り方って放射状と格子状、どちらがより美味しいのだろう。

 コーヒーと交互に味わいながらまたここでホットケーキを食べなくてはならない理由を見付けてしまった。


 ごちそうさまでした。

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