13話:アホウドリのリーダー

「ロンさんロンさん! この方々は、以前までの勇者パーティ、白銀の騎士団・・・・・・の皆さんなんです」

「「「…………え?」」」

 そう。イゼンはセラの先代の勇者。アホウドリにお株を奪われた白銀の騎士団・・・・・・である。

「まさか君たち……知らなかったのか⁉ 僕たちを⁉」

 認知されていないなどと夢にも考えていなかったのか、以前の勇者イゼンは豆鉄砲を喰らった表情で仰天した。

 後ろに控える女子三人も、あんぐりと口を開けている。

 しかし、そんなことがロンたちの気を引くわけもなく、

「たった四人で騎士団っておかしくね?」

「騎士じゃなくて、冒険者」

「白銀要素もよくわかんないよね?」

パーティ名の方が面白いと感じていた。

「なっ、白銀の騎士団の名前も聞いたことがない……のか?」

「「「アホそうな名前だね」」」

「君たちだけには言われたくない!!」

 注。ロンたちのパーティ名はアホそうな・・・ではなくアホな名前である。

「なんなんだ君たちは……。そもそも僕の顔だって、街のいたるところに像が立っていて分かるだろう!」

「たくさんあっていちいち顔なんて覚えてねえよ」

「全部僕だよ!」

 自分たちのことを全く認知していないロンに、ヒートアップが止まらないイゼン。

 口論の矛先を変えるというロンの目論見はある意味成功したが、思いもよらぬトラップを引いてしまった。

 とは言え、これに関しては世間に疎すぎるロンたちが悪い。

「まあ、あれだ。あんたらのこと知らなかったのは悪かったよ」

「世間知らず。否めない……」

 さすがのロンたちもその自覚はあるようで、素直に謝罪を口にする。

 ……だけで終わるはずもなく、

「でも、今の勇者は俺たちだ」

「型落ち勇者が、出しゃばらないで」

「あっ、俺たちは別に勇者であることにこだわりぜんっぜんないから、代わってくれても構わないぞ? おさがりの称号でよければな」

煽る煽る。

 勇者らしくない言動のオンパレードだが、それこそ勇者号を剥奪されたら御の字くらいに考えているロンにとって、むしろ望むところだ。

「ちょっとあんたたち! 言い過ぎよ!」

「イゼンは何も悪くないじゃない!」

「そうよ! 悪いのは全部あんたたちよ!」

 そのあまりの態度に、イゼンの後ろに控えていた女子三人も口論に加わってきた。

 彼女らの名前は、モト、キュウ、マエノ。ロンはそれを司会っ娘に耳打ちで教えてもらう。

「ったく。じゃあなんだよ。お前らは俺に何を求めてるんだよ」

 反省か、謝罪か、挨拶のやり直しか。ロンの言う通り、今のままではイゼンがなんのために糾弾しているのか分からない。だがいずれの要求が来たとしても、ロンは口八丁で言いくるめるつもりだ。

 しかし、突き付けられた要求は予想の斜め上を行く。

「決闘だ」

「は?」

 まさかの実力行使。

 そのあまりにも突飛な発言に、ロンをもってして頓狂な反応をしてしまう。

 イゼンは右手の人差し指を四人にびしりと突きつけ、さらに続けた。

「白銀の騎士団のリーダーである僕と、君たちのパーティのリーダー、一対一での決闘だ。僕が勝てば、君たちには言動を改めてもらう!」

 そう言い切って、イゼンはふんすと荒く鼻息を吐く。まるで「仕方ない奴だなあ」とでも言うように。

 いつの間にか、ざわざわしていた観客たちはこの突発イベントに注目しており、司会っ娘も輪を離れ、誰かと小声で相談している。。

 つまりこの場は、完全に新旧勇者パーティのディベート会場となっていた。

 殴り合いに発展しそうではあるが。

「こっちが勝った場合は?」

「……こちらに強制する権利はないから、分かってもらえるよう今後も誠心誠意訴えかける」

「メリットの無さが果てしねぇ!」

 イゼンの言っていることはつまるところ、『決闘で僕に負けたら言うことを聞け。そっちが勝ったら僕に説得されろ』だ。

 勝ったとしてもイゼンが諦めるわけではなく、仮に諦めたとしても、それでも尚アホウドリにメリットはない。

「そもそも間違ってるのは君たちなんだ。これだけの譲歩でも破格なんだぞ。それに……」

 ロンの反駁を無視し、さらに畳みかけようとするロン。

 しかしそれを遮って、

「はぁ~いみなさん! ここでサプライズイベント、新旧勇者のガチンコ対決です!」

何やらごそごそやっていた司会娘が、ついに暴走した。

 その奇行に、ロン、リシャ、フリンテの三人と、白銀の騎士団四人が驚いて顔を向ける。ナキは立ったまま寝ている。

 そんな七人に、司会娘は拡声魔法を切って観客に聞こえないように説明してきた。

「こうでもしないと収集つかないんですよ! 皆さんが何懸けるかは勝手にしてもらって構いませんが、決闘事態は見世物にさせて頂きます! 拒否は認めません!」

 恐ろしきかな。女性の圧力。

 そのすごみに、七人は「はい……」と答えることしかできなかった。

「なんだ、挨拶から一連の出し物だったんだな」

「おもしれえ演出だなあ」

「頑張ってイゼン様~!」

 既に盛り上がり始めている観客たち。確かに、片方は元とは言え、勇者同士の戦いなど興味をそそられないはずがない。

「勝負は簡単。ギルド認定の決闘ルールに則って、リーダー同士の一騎打ちを行っていただきます!」

 再び拡声棒を持ち上げ、司会が詳しい内容を説明する。

 ギルド認定の決闘ルール。それは冒険者同士でいざこざが起きた際に使われる、いわゆる公式ルールである。

 何でもあり・・・・・にしてしまうと死人が出かねないため、策定されたものだ。

 セラの街だけでなく五つの街全てで共通するもので、過去には街同士の勇者が決闘したこともあるほど広く普及している。

「白銀の騎士団からはイゼンさん。アホウドリからはロンさんの参戦でよろしいですか?」

 ルートに入った司会娘は、さくさくと進行を進める。

 言い争っているうちに段取りをつけていたのか、ステージの下ではあたふたと準備する職員たちの様子が見えた。

「こちらはかまわないよ」

 すぐにイゼンが頷く。

「いや、俺はリーダーじゃないぞ?」

 しかし、またしてもロンが流れを断ってしまう。

 イゼンもロンがリーダーだと思い込んでいたらしく、少々驚いた様子だ。

「君じゃないなら、リシャかい? それともフリンテか……彼?」

 そう言って、器用に立ち寝しているナキを指さすイゼン。

「いや、俺たちにリーダーなんていないが?」

 しかし、そのどれも否定された。

 アホウドリは“なんだかんだ上手くいく”タイプのチームであり、そもそもリーダー自体が存在しない。

 パーティにはリーダーが必須という決まりはないし、いたとしても、指示出し役がイコールでリーダーというわけでもない。むしろ、一番強いメンバーがリーダーになるのが一般的だ。

「なら、一番強い人を選んでくれ」

 イゼンもその一般論に則り、代理のリーダー選定を促す。

「よ~っし、おまえらジャン負けな。ナキ、起きろ!」

「「「へ~い」」」

「「え?」」

 再三のことではあるが、アホウドリに一般論など通用しない。

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