世界の危機なんて縛りプレーで余裕だが?

アサヒ

一章 石橋は叩いて砕く。鉄は冷ましてから打ち壊す

1話:そのパーティ、アホにつき

 ダンジョン。それは貴重な資源を生成する謎の地下迷宮。

 五つ存在するダンジョンの周囲にはそれぞれが形成され、その計五つの街はダンジョンから得られる貴重な資源によって成り立っている。

 ダンジョンは危険なモンスターも排出するが、そのモンスターの素材もまた価値ある資源。しかし深層に行くにつれて危険度は上がり、いったい何層まで存在するのかは未だにわかっていない。

 故にダンジョン攻略や探索を生業とする冒険者は重宝され、新たに層を攻略したパーティはその街の勇者パーティ・・・・・・として絶大な名誉を得る。


 そして今日も、セラの街のダンジョン九十九階層のボス部屋前に、命知らずの若き冒険者パーティの姿があった。


「この中にいる黒龍ッてのを倒せば、俺たちにも名誉ある二つ名・・・・・・・が与えられちまうッてわけか」

 金色の短髪、高身長で筋肉質のナキが、鳶色の巨大な封印扉を前に武者震いする。

「今になって怖くなってきた……。名誉の称号・・・・・獲りに行こうなんて言わなきゃよかったよ……」

 逆にフリンテは怖気づいた様子。薄水色のボブカットヘアをその心のようにゆらゆらと揺らしながら、不安そうに扉を見上げた。

「んっ。まぁ、なんとかなる」

 無表情かつ抑揚のない声でそう言ったのは、リシャ。魔女っ娘然とした大きなとんがり帽子に、白のフーディと水色のミニスカート。帽子から伸びる銀色の髪はすらりと腰元まで届き、十三歳という幼い体を包み込んでいる。

「とりあえずお前ら、いつものやるぞ」

 パンパンと手を叩き、話を切り替えたのはロン。黒髪でナキより少し小柄だが、細く引き締まった体に貧弱さは微塵も感じられない。ちなみに、ロンとフリンテは十七歳。ナキは十八歳だ。

 呼びかけに応じて四人が円陣を組むと、ロンがおもむろに右手を差し出し、他の三人もそれぞれ右手を重ねた。

 これは、彼らが勝負に臨む前に必ず行う儀式。

 一度も欠かしたことのない、大切な……、


「「「「ポジションどーこだ!!」」」」


戦闘の配置をランダムに決定するくじ引き・・・・である。


 結果

  ロン→後衛

  リシャ→後衛

  ナキ→前衛

  フリンテ→前衛


「カハハッ。今回は割とバランスいいなッ!」

「大はずれだよおぉ! 私の十八番は感知なんだよ⁉ 戦闘力は皆無なんだよ⁉ 黒龍相手に前衛とか無理なんだけどおぉ!」

 くじの結果に対して反応はそれぞれ。

 特にフリンテはギャン泣きし、バタバタと洞窟内で暴れまわっている。サポート職が本領と自称しているが体捌きは俊敏そのもので、動きやすさを重視した半袖シャツとホットパンツも様になっている。

 そんなフリンテとは対照的に、ロンは落ち着いた様子で腕組みしつつ、

「その縛りプレーが面白えんじゃねえか。俺だって後衛は得意じゃねえ」

そう言ってのけた。

 ロンの得意スタイルは近~中距離での魔法戦だ。

 後衛では実力の全てを発揮できない上に、相手はいまだ討伐されていない階層ボス。舐めているにもほどがある態度であり、本来ならフリンテのように慌てるべき状況だが、しかしフリンテ以外の三人にその様子はない。

「そもそも、ポジションのクジ決めは、フリンテが作ったルール。自分が慌ててどうする」

 リシャが無表情にツッコミを入れる。ミニスカートという、フリンテと違い激しく動くといろいろ危ない恰好。その見た目通りリシャは後衛向きで、今回は当たりだ。

「うわあぁ! 私はいつもそうだぁ! 不用意な発言が自分の首を閉めるんだぁ!」

「だったら用意して」←リシャ

「俺は楽しませてもらってるけどな」←ロン

「ハッハッハ! バカなやァつ!」←ナキ

 ちなみにこのパーティの名前はアホウドリ・・・・・。チーム名としてはいささか趣に欠けるが、なぜそんなふざけた名前になったかというと、

「ナキにだけは言われたくない‼」

ナキが作戦を忘れまくる鳥頭のアホだったからである。ちなみに別案は鶏人間コンテスト・・・・・・・・だった。

「いいから行くぞバカども」

「言われてるぞォフリンテ」

「自覚のねえ奴がいるようだなぁ⁉ 誰のせいで作戦が立てれねえと思ってんだこの鳥頭!」

 圧倒的にアホなナキは、事前に指示を出しても覚えておけるのはせいぜい一つ。先んじて作戦を立てても、そのほとんどが押し出し式で抜け落ちていくのだ。「あれをやった後にこれをしろ」と言えばあれ・・これ・・のどっちか忘れる。

 故にアホウドリは作戦を立てられず、戦闘は常にアドリブという縛りプレー・・・・・が課されているのだった。

 ただし、作戦を立てられない要因はもう一人いるのだが……。

「とにかくさっさと行くぞ。つまんねえやり取りしてたからリシャが眠くなってる」

「うだうだ、しすぎ……」

 本当に眠そうな顔でロンに寄りかかるリシャ。その肩を抱きながら、ロンはボス部屋の入り口……鳶色の封印扉に手をかける。

 これから命がけの戦いだというのに一切緊張感のない四人。しかしそれこそがアホウドリ。

 どんな時も頭を空っぽにして楽しむ、究極のバカどもの集まりだ。

 ガコン……。

 ロンが手を添えただけで封印扉は奥に向かって開いていく。

 そこに漂うのは全き危険、本能的恐怖。

 しかし四人はいざ知らず、迷いなく真っ暗なボス部屋に突入した。

 封印扉はすぐに内側から触れて閉じておく。こうしておかないとボスが部屋から出てしまうからだ。開けた扉は必ず閉める。これは冒険者の常識であり鉄則である。

 フワッ。

 扉が閉まると同時に、暗黒だったボス部屋が明るくなった。

 光源があるわけではなく、まるで部屋全体の光度を上げたかのような、不自然に自然な明るさだ。

 ボス部屋は半径百メートルほどのドーム状の空間になっており、床からは数十メートル単位の石柱が無数に乱立している。まるで石のジャングルだ。

 そして中央の少し開けた場所に、件の黒龍の姿があった。

「グルルル……」

 紫がかった漆黒の鱗、四本の脚に一対の大翼、見上げるほどの巨躯。

 まさに物語通りといったその姿は、最強の種を体現するかのように雄々しく、強大で、威圧的だ。

 初めて目にする黒龍に、四人はにやりと口角を上げる。

「ははッ。こいつを倒せば、俺たちは……」

「んっ」

「名誉ある」

「「「「ドラゴンスレイヤーだ!」」」」


 尚、四人は勇者パーティ・・・・・・の称号に興味などなかった。



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