第15話 自演

 戦谷の本心は暴けない。大人もみんな騙されている。そして騙された結果、手遅れになることを後から自覚させられるのだ。


『おい、お前。依頼すっぽかす気か? それに、薬も……使ってねぇのに支給は受け続けてるよな?』


 彼の手持ちには、きっと使わなかった分の大量の眠り薬がある。見ればゾッとするほどの致死量だ。それをどうする気なのか?

 俺は俺の中で出た答えを、必死に飲み込む。


『のーこめんとです』


『あ、おい!』


 風邪の日や、依頼人に暴力を受けた日のしおらしさはなく、彼は走っていった。


「あー、クソ。なんで気づいちまったんだ俺は……」


 アイツが母親に会いにいく前に、手持ちの薬を取り上げる必要があった。力ずくじゃ逆効果。何かないかと脳内を探る。


「あ」


 一つだけ、思い出した先輩の言葉があった。


『眠り薬絡みの事件が起きれば、全従業員の手持ちの薬が調査される。予定する依頼に対して薬の所持数がおかしければ、対処されるんだ』


「それだ」


 俺は今夜の依頼人を自ら選ぶことにした。俺への指名はもちろん多い。そしてそれをしっかりとこなしてきている。だからすぐに希望は通った。


 できるだけヒステリックな女を選ぶ。少しでも気に入らなければ、何十倍もの声量で騒いでくれるに違いない。薬を使わずに限界まで気分を高めさせてから、強い酒を飲ませてトイレに薬を捨てる。薬の袋をベッドにばら撒いて、朝目が覚めた時に俺がいなければ舞台は整うのだ。薬を過剰に飲ませられた上、眠り屋が逃走したと。


 そうすれば、従業員の薬を調査される。


「どういうつもり? SNSで依頼人が騒ぐもんだからかなり広がってるわよ」


 だいぶ不機嫌なマネージャーからはお叱りをくらった。でも大丈夫。台本通りに事は進んでいる。


「トップ2ついに炎上? その席に僕が立つのも時間の問題かな」


「かもな」


「嫌な冗談はやめてくれ。君には今のままでいてもらわなければ困る。」


「だからなんだそれ。いいかげん上に立つ覚悟を決めろ」


 嫌味な口調で話を振ってきたのは、二日後輩のほぼ同期だ。三番手とか、こいつは程々の成績を好む。この競争社会でトップ3くらいの成績を好む性分だった。


「しかしなんでこんなわかりやすいヘマをするんだ、キミらしくない」


「いろいろ事情があんだよ」


「ふーん?」


「……これをしなきゃ、トップが消える」


「トップって戦谷くんのことか?」


「ああ、アイツの薬を取り上げたい」


「それって、例の噂……?」


 彼も勘づいたようだった。俺は自分の頭を整理するように口を開く。

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