第2話 眠り屋のからくり

 眠り屋はどのように依頼人を眠らせるのかを公表しており、その方法についてはかなり慎重に同意をとっている。それは眠る方法が眠り薬の服用だからだ。彼らはさりげなく依頼人に薬を飲ませる。依頼人はそれによって朝まで眠るというのが、このサービスのからくりだ。


 医者に処方してもらう睡眠薬とは違い、彼らの使う眠り薬には副作用がない。あくまで眠るためだけの魔法のような薬だ。薬の所為で他の症状が出ることはないと十分に証明されているので、サービスを利用する人間は多い。

 僕が夜中に飲んだ白湯にも、追加の眠り薬が少量混ぜてあったのだろう。眠り屋は依頼人に分からないように薬を飲ませなければならない。だからそれを入れていた湯呑みを、彼は念入りに洗って帰ったのだ。


「ふああ……」


 あくびが漏れる。先ほどまで寝ていたはずなのに。


 おそらく僕は薬に慣れ始めている。このままでは、薬の量が増え、やがてサービスを使えなくなる。副作用がないとはいえ、規約では薬は一日3錠分までと決まっている。その量では眠れず、それ以上を要求した依頼者は即座に契約を解除し、サービスの利用を停止しなければならない。その状態になれば、医師の診察が必要な体であるという医学的な基準があるからだ。


 契約解除なんて御免だ。


 僕はこんなにリーズナブルな価格で手に入れられる睡眠を手放したくなかった。それに、誰かが毎日訪ねてきてくれるこの生活も悪くないと思っていたから。


 仕事を終えて家に帰るころにはあたりが暗くなっていた。日が短くなると過ごしづらいと思いながら今日の担当者を待つ。そう経たないうちにインターフォンが鳴った。


 ピンポーン♪


「はい?」


「ごめんください。眠り屋です」


「ああ、どうぞ……え?」


 いつも通り、相手の言葉の内容だけ聞き取って僕はドアを開けた。僕は驚いて視線を下に移す。目の前に立っている人物の目線がだいぶ下にあったからだ。


「こんばんは。眠り屋からきました。せんごくです」


 大きなカバンを持ち、戦谷と名乗った少年は純粋な目でこちらを見上げていた。


「(こ、こども……? なんで?)」


「おじゃまいたします」


 彼は当然のように玄関に上がり、靴を丁寧にそろえて立ち上がる。その動作の始終を見ながらも、僕は状況が呑み込めないでいた。


「あ、あの……。君、歳はいくつ?」


 そう思わず声が漏れた。

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