第2話 実用性のないカウントダウンと、デートのお誘い


(学校からの帰り道、ヒロインを家まで送る主人公)

 SE:雑踏

 SE:車の走行音

 SE:ヒロインの足音

 

しっかし、はちゃめちゃによく寝てたっすねぇセンパイ。

そんなに耳もとでぽしょぽしょされるのが良かったんすか〜?

えひひ〜

センパイ、普段は私のことビシバシするクセに〜

意外とM気質あるんじゃないすか〜???


 (ヒロイン、主人公にデコピンされて悶絶する)

あでしッ!?!?!?


いってぇ……デコ、いってぇ……!!!

絶対陥没してるっすよコレぇ……

センパイ、いくら後輩が普段クソうるさくてちょいウザで可愛いからって、

女の子にデコピンしまくるのは、

どうかと思うっすよ……

傷が残ったりしたら、どうするつもりっすか……

そしたら、私……


 (ヒロイン立ち止まる)

……んッ!?!?!?

ちょっと待ってくださいセンパイ。

つまり、もし私が傷物になったら……

センパイがお買い上げしてくれるってことっすか!?!?!?


 (主人公歩き出して、ヒロインの声が少しずつ遠くなる)

はぁ〜ん? なるへそ!

つまりセンパイが私にしょっちゅうデコピンするのは……

「コイツは俺の女って」マーキングしてたってことっすね!?!?!?

そうなんすね!?

そうなんすよね!?


 (でっっっけぇ声で)

って違うんかいッ!!!!!


 (主人公の隣まで戻ってくるヒロイン)

 (ヒロイン、舌打ち)

……チッ


は? いや舌打ちなんてしてないすけど?

いまのは投げキッスっすよ


ん〜まっ♡


ね? 

……って、ぜんぜん音違うじゃねーか!


ちょっと、センパイ。

センパイが構ってくれないから、

私ひとりでボケとツッコミ、ワンオペでやってんすけど。

センパイもシフト入ってんすから、

ちゃんと働いて欲しいっす。

過重労働で労基が動くっすよ?


あーあ、センパイが素直になってくれたら、

センパイが望むこと、なぁ〜〜〜んでも、

してあげようと思ってたんすけどねぇ……???


ふふ、センパイ?

「いま、なんでもって言った?」って目で私を見たっすね?


言ったっすよ!!

ちなみに、っすけど。

センパイは私がなんでもしてくれるって言ったら……

……なに、してほしいっすか……???


……ごくっ


は? ……カウントダウン???

……あ、耳もとでささやくやつっすか?


…………かぁ〜〜!!!!

そういうことじゃねーんすよ!?!?!?

センパイ!?

おめえさん男だろうがよ!?

ギャンかわの後輩女子がお目々うるうるで

「なんでも……してあげるっすよ……♡」

って言ったときに!!!!

やらせることがカウントダウン????

あ゙あ゙あ゙あ゙〜〜〜〜〜!!!!

このばぁあああ〜〜〜〜〜か!!!!

耳フェチ!! 

音フェチ!!

耳から生まれた耳えもん!!!!

耳えもんってなんすか!?!?!?

私が知りたいっすよそんなこと!!!!


あ〜〜〜疲れた。

しゃーなしっすよ? センパイ。

センパイのために、私がひと肌脱いであげるっす。

いや、「頼んでない」とか言わずに。

い〜から、もちょっとこっち寄って下さい。

センパイがしてほしい、カウントダウン。

してあげるっす……♡


分かって言ってる? って、何のことっすか?

カウントダウンっすよね?

もち、ご承知の助っす!

聞いてると〜ワクワク、ドキドキしちゃうような〜?

そういう、ヤツっすよね……?

それじゃ……いくっすよぉ……♡


 (ヒロイン咳払いして、すこし離れる)

んっん〜……


Tマイナステン

ナイン

エイト

オールシステムオンライン

セブン

シックス

ファイブ

フォー

メインエンジンイグニッション

スリー

ツー

ワン

リフトオフ!!!!

ワン、ツー、スリー


ちょ、なんすかいまいいところなのに!

カウントダウンがゼロになってロケットがリフトオフした後に、

カウントアップが始まるのがイイんじゃないっすか!

どうすかセンパイ、ワクワクしたっすか!?!?!?

ワクワクしたっすよねぇッ!?!?!?


 (愕然とした感じで)

……え、違う?

そんなバカな……

これでワクワクしないヤツおるん……???


……あ〜〜、わぁ〜っかったっすよ!!

もっとドキドキするヤツが欲しいんすね?

アレっすね!?

私、分かっちゃったすよぉ〜?

んも〜センパイったら好き者っすねぇ〜……

後輩女子にこんなことさせるなんて……

でも……

センパイになら、いいっすよ……

じゃあ、いくっすよ……?


 (ヒロイン咳払いして、すこし離れる)

んんっ!


発射管注水音!!

敵艦魚雷発射!

雷数2!

距離1000!

敵艦、さらに続けて魚雷発射、雷数2! 

急速潜航!!

距離800!

700!

回避間に合いません!

着弾まで10秒!

9、8、7、6、5、4、3、2……

衝撃に備えろ!!


どうすかセンパイ!? ドキドキしたっすか!?!?!?

ドキドキしたっすよねぇッ!?!?!?

手に汗握るドキドキハラハラなカウントダウンっていったら、

やっぱこれっすよねぇ!?!?!?


なにげんなりしてるんすか!?

「一瞬でも期待したのがバカだった」って……?

だぁ〜〜〜いじょぶっすよセンパイ!

バカでも世の中なんとかなるかな——あでしッ!?!?!?


……ぃでぇ〜〜……く、くくく……

いいっすよ、センパイ。

いくらでもデコピンすれば良いじゃないっすか……

そしていつか思い知るがいいっす……

「思えば、あのときのデコピンが恋の始まりでした……」って!!!!


 (ヒロイン宅のマンション前までやって来る)

 (ちょっとガッカリした声で)

……あ。

家、着いちゃったっす……

じゃあ、私ここなんで……

あざっす、いつも回り道してまで送ってくれて。

なんか、申し訳ないっす……迷惑ばっかかけちゃって。


 (「迷惑じゃない」という主人公の返答に、とたんに調子に乗るヒロイン)

え〜???

そっすかぁ〜???

ふぅ〜ん???

センパイも、好きで送ってくれてるんすねぇ〜???


 (頭をちょっと乱暴に撫でられるヒロイン)

あでっ、へへへ〜♡

そ、そぉ〜やって不意に頭なでなでするの……

まっじでズルっすからね、センパイ……

他の子にやっちゃダメっすよ!

じゃぁ……、また、来週……っす。


 SE:マンションの自動ドアが開く音。


 (ヒロイン、後ろから追いかけてきて主人公に声をかける)

 (緊張してテンパった感じで)

あ、あのセンパイ!

あの、あのあの……っすね……

明日ァ、んんっ、

明日、休みじゃないっすか……?

センパイは、なんか、もうすでに予定とか……あるんすか……?

あ、そうなんすね〜? 特に、なにもない……?

じゃ、じゃあ、あの……

えと……

ちょ、ちょうど観たい映画があるんすけど……

た、たしか前センパイも気になってるって言ってたヤツなんすけど……

そろそろ、上映終わっちゃうらしいんすよね……

だから、えと、その……

…………一緒に、行かないっすか?


 (主人公が誘いに乗ってくれて、喜ぶ)

 (安堵した、嬉しそうな声で)

えへへ……♡

やったぁ〜っ♡

ふ、ふふ〜ん♡

じゃ、じゃああの、詳しいことはまたあとで……

夜に、通話しても、いいっすか……?

ひひっ♡

じゃ、たのしみにしてるっすよ、センパイ♡

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