【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
@karakoba0110
序
「そこまで来てる!向きをそらせないか、スバル」
インカムを通し、前線で奮闘しているであろう仲間に伝える。ここは変哲もない街並みの一軒の戸建て。平屋の屋根の上、正面の道路を睨みながら№4守備隊、第十一番隊のカナタが指示を出している。
すぐ隣からくぐもった銃声が聞こえて、目の前の道路に出てきた一体の感染者が倒れる。
「カナタ君、弾が残り少ない。このままだと、抑えられなくなる」
屋根の瓦の上に伏せて、屋根の一番上にある棟瓦にライフルの先を預け射撃をしているゆずが言いながら手早くマガジンを交換している。
正面の道路は国道からの分岐であり、現在国道を感染者の集団が移動をしているのだ。マザーと呼ばれる特殊な個体を中心とした感染者の集団(コロニー)は周期的に移動をしており、そのルートは大体同じだ。しかし今回の移動を観測した感染者の研究機関の喰代博士から、普段と違う行動が見られると№4に連絡があり、警戒するためカナタ達十一番隊が出ていたのだが……
「まさか都市の方に向かってくるなんて……なんとか向きを変えないと、このままじゃ都市を直撃する」
「カナタ君、また来た。前線は何やってる!」
ライフルのスコープで道路を監視していたゆずが叫んだ。慌てて双眼鏡で見てみると、たしかに角を曲がりこちらに向いて歩いて来るのがいる。
「今度は二体か……」
その時、国道の方で派手に打ち上げ花火が上がった。感染者の気を引くために持って来ていたのだが、保管状況が悪かったのか火がつかないと前線のスバルから通信が入っていた。ようやく着火できたようだ。
「ちょっと、こっちに来てるじゃない!カナタ、国道の状況は?」
数人の者が駆けてくる足音がしたと思うと、下から声がかかる。都市の応援部隊が到着したようだ。下をのぞくとこっちを見上げる女性と目が合った。
「ハルカ?六番隊が来たのか?他の部隊はどうしたんだよ」
「他の作戦とぶつかってて、普段より都市に残ってるのが少ないのよ。それで急遽六番隊に声がかかって。花火が上がってたけど、うまく方向変えられたの?」
ハルカが聞いてくるのと同時に、カナタのインカムからも声が聞こえた。
「わりい!なかなか火がつかなくてさ。最終的に白蓮さんが焚火起こしてその中に放り込んでつけた。こっちから見える範囲は国道ルートに戻っているみたいだ。このままダイゴと誘導する。白蓮さんは何体かそっちに曲がったのがいるって別れた。気をつけろ、何体か二類感染者を見かけた。たぶんそっちに行ったと思う。」
前線で感染者の集団を誘導しようとしているスバルから、そう連絡が入る。おおむね作戦は思い通りになったようだが、数体こっちに来てしまったようだ。
使用しているインカムは部隊員全員が同時に聞こえるタイプなので、射撃体勢のゆずには言う必要はない。
肩を叩くと、意図を察したのかライフルを肩に担ぎなおして立ち上がった。
カナタは屋根に上がる時に使ったはしごで下に降りると、スバルが言った内容をハルカに伝えた。
「とりあえずは何とかなったって事ね。じゃ、こっちに来ている分を叩けば問題なしね」
そう言うが早いか、着いて来ている六番隊の隊員に声をかけると先へと走って行こうとする。
「ハルカ!二類感染者もいたらしい。気をつけろよ」
走り出したハルカにそう声をかけると、ハルカは振り返らず右手を挙げて了解の旨を伝えてきた。
「あいつ、ここまで走ってきたのに、ろくに休憩なしで行くつもりかよ」
その背中を見つめながらカナタはそう独りごちた。そして思い返す。そういえばあいつ元陸上部だったな、と。
世界がこんな風になってから三年が経つ。三年前までは、カナタもハルカも。前線にいるであろうスバルやダイゴも普通に高校に通っていた。
世界は平和でそのまま学校を卒業して、進学したり就職したりして……それでも大して変わらない日常を過ごしていくんだろうと思っていたのに。
いや、思ってもいなかったのか、当たり前すぎて。そんなこと気にもしていなかったか……
少なくともその当時は当たり前だと思っていた世界は意外と簡単に壊れてしまった。人が住める領域はまだまだ狭く、ほとんどのエリアは、ゾンビのように徘徊する感染者が支配している。ある日、突然町に現れた一人の感染者から爆発的に拡がり、いまでは非感染者の方が少なくなったと言われている。
平和だった日常は、簡単に危険な非日常へと変わり果てた。カナタはその日のことを今でも覚えている。ふとその日の事に思いをはせるのだった。
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