黄泉からきた列車

羽弦トリス

黄泉から来た列車

1945年8月22日、九州の列車事故では最も悲惨な事故が起きる。

鹿児島県吉松駅から宮崎県都城に向かう機関車。

1両牽引、1両後押しの機関車。

客両5両、貨物8両編成。だが、そこには戦争を終えて、地元に帰る元日本兵が貨物列車にもたくさん乗っていた。

周りは、厳しい戦争を生き抜き、地元での暮らしを夢見ていた。

早く家族に会いたい少年兵、妻子との再会を喜ぶ青年兵。

この列車は、復員兵の夢を乗せていた。


貨物列車に溢れた乗客は、質の悪い石炭の煙に参っていた。

列車進み、山の勾配を登り始めた。


ちょうど宮崎県のえびの市の山ノ神第2トンネルに差し掛かった時だ。


列車は止まる。

乗客は石炭の煙でむせて、トンネルを歩いて脱出しようとした。


すると、登り坂の列車は退行を始めた。

乗務員は大声を出して、危険の合図を送ろうとしたが、凄まじい黒煙で喉が焼けるほど痛みD1は、後退する。


復員兵は逃れるため走った!

しかし、列車は次々と人間をはねてしまった。

死者53人。


戦争を生き抜き、家族の元へ帰るはずの復員兵は列車にはねられ夢を希望を失った。


これが、肥薩線ひさつせん事故で歴史に残る。

慰霊碑が建てられた。


夏の夜中、山ノ神第2トンネル付近では機関車の汽笛の音が聴こえてくるそうな。


あの退行事故で、黄泉から列車が走り亡くなった人の魂が家族の元へと走るのだ。


もうすぐ8月22日。

九州から離れているが、その日は黙祷を捧げたい。

黄泉から来た列車は、また、今年も走るのだ。




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黄泉からきた列車 羽弦トリス @September-0919

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