第84話 悪霊の屋敷
「ゴンちゃんはどうしてここに住もうと思ったの?」
「家賃が安いからだ。怨霊が憑りついているという噂のせいで誰も住みたがらないからな、だから今では格安の家賃で借りられる」
「いや、いくら安いからって事故物件を紹介するなよ!?」
「す、すまん……ここ以外に俺が暮らせそうな建物はどれも家賃が高いからな」
ゴンゾウの説明を聞いてレイトは納得し、確かにどんな立派な屋敷であろうと死霊系の魔物が暮らす家など普通の人間ならば住みたがらない。だからこそレイト達には都合が良かった。
「よし、ここに住もう!!」
「はあっ!?何言ってんだよ!!怨霊が憑りついている屋敷に住めるわけないだろ!!」
「冒険者が怨霊なんかに怖がってどうすんのさ。それにうちには怨霊なんか簡単に退治してくれる白の魔術師様がいるでしょ?」
「なるほど、ハルナの力を借りるんだな?」
この屋敷に本当に悪霊が憑りついていたとしても浄化魔法を扱えるハルナならば退治できるはずだった。先日も死霊使いの生み出したアンデッドもハルナは滅しており、彼女の力を借りれば悪霊退治など簡単だと判断したレイトは準備に取り掛かる――
――女性陣と合流した後、屋敷の管理人と話し合いを行ってレイト達は鉤を受け取る。屋敷の敷地内に入るとその広さにウルとスラミンは嬉しそうに駆け回る。
「ウォンッ♪」
「ぷるぷるっ♪」
「二人ともここでなら人目を気にせずに遊べるから喜んでる」
「街中だと色々と気を遣うからね」
魔物であるウルやスラミンは放し飼いは認められず、常に街で行動するときは保護者が一緒にいなければならない。もしもはぐれた場合は警備兵に捕まる恐れもあり、広くて誰にも迷惑をかけない場所なら思い切り遊ぶことができる。
ゴンゾウやペット達のためにもレイトは屋敷を借りたいと思ったが、それには怨霊を何とかしなければならない。そのためにレイトはハルナの力を借りようとしたが、何故か屋敷に入ってから彼女はレイトの背中に隠れて中々進もうとしない。
「ううっ、お化け怖いよ~」
「いや、怖いって……この間はアンデッドを浄化してたじゃん!!」
「ア、アンデッドは怖くないけど、
「そんなんでよく白の魔術師になれたな!?」
同じ系統の魔物と言えどもアンデッドは実体が存在するのに対し、死霊は肉体を持ち合わせていないため、物理攻撃は一切通じない。だからハルナの浄化魔法に期待したのだが、肝心のハルナが怯えて屋敷に入ろうとしない。
「や、やっぱり止めとこうよ。住む場所なら私が魔術協会の人に頼んで探してもらうから……」
「それはちょっと……ここ以上に良い条件の物件なんてあるとは思えないし」
「だが、ハルナがこの有様では悪霊退治は難しいだろう」
「怖いなら無理しない方がいい」
「ぷるぷるっ!!」
「ウォンッ!!」
嫌がるハルナを見てコトミン達は彼女に同情するが、これほど大きな屋敷を格安の家賃で住む機会は二度と訪れない。どうにかハルナを説得しようとレイトは考えた時、先にダインが屋敷の扉に向かう。
「たくっ、お前等怖がり過ぎなんだよ。僕は死霊如きに怖がったりしないぞ」
「ダイン!?一人で先に行くのは危ないよ!!」
「平気だって、だいたい相手はスケルトン一匹だぞ?そんなの僕が負けるはずが――」
会話の最中にダインは扉の取っ手に手を伸ばした瞬間、内側の方から扉が勝手に開いて何者かがダインの腕を掴む。その手は皮膚も筋肉も存在せず、真っ白な骨であった。そして腕を掴まれたダインは屋敷の中に引きずり込まれた。
「ぎゃあああっ!?」
「言ってる傍から!?」
「ダ、ダイン!?すぐに助けるぞ!!」
「わああっ!?ダイン君が攫われちゃった!?」
「レイト、ハルナは任せて」
「ぷるぷるっ!!」
ゴンゾウは慌てて閉じられた扉の元へ向かい、混乱に陥ったハルナをコトミンとスラミンが宥める。この場は彼女に任せてレイトはウルと共にゴンゾウの後に続き、扉を開こうとしたが鍵が掛けられていた。
「あれ!?鍵が……内側から閉めたんだ!!」
「仕方ない、破壊するぞ!!うおおおおっ!!」
「キャインッ!?」
ゴンゾウが体当たりで扉を破壊すると、レイト達は屋敷の中に入り込む。不思議な事に長い間人が暮らしていないというのに、まるで毎日掃除が行き届いているかのように屋敷の中は綺麗だった。
(どういう事だ?まるで今でも人が住んでるような……いや、それよりもダインだ!!)
連れ去られたダインを探すが何故か見当たらず、屋敷の中に連れ去られたのは間違いないが何処にも見当たらない。この時にウルが鼻を引くつかせてダインの臭いを辿っていく。
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「ウル、こっちにいるのか?」
「よし、行くぞ」
ウルを先頭にしてレイトとゴンゾウは屋敷の中を進み、途中で廊下や部屋を確認したがどこも誇り一つないほどに清潔な状態で保たれていた。この屋敷に憑りつくスケルトンの怨霊が掃除しているのかと不思議に思いながらレイト達は先に進む。
屋敷の端の方にまで移動すると、地下に続く階段を発見した。臭いは地下に続いており、暗闇で覆われているのでレイトは念のために持ち込んだランタンに火を灯す。
「この下に続いているみたいだけど、ゴンちゃんは入れそうにないね」
「むうっ……屈んで進めばいけそうだが」
「駄目だよ。もしも逃げるときにつっかえたら大変なことになるからね」
「クゥンッ」
身長の問題でゴンゾウは階段を下りるのは難しく、ここから先はレイトはウルと二人で先へ進む。ゴンゾウは階段の前に待機して何かあった時はすぐに駆け付けられるように準備をしておく。
「じゃあ、行ってくるよ。もしも何かあったらウルを引き返させるから、その時は外にいる二人と合流してね」
「分かった。気をつけて行ってくるんだぞ」
「ウォンッ!!」
ウルと共にレイトは階段を下りると、大きな扉を発見した。こちらの扉は鍵穴はあったが鍵は掛けられておらず、慎重にレイトは扉の取っ手に手を伸ばす。
「ウル、何かあったらすぐに逃げるんだぞ」
「ウォンッ!!」
「しっ、声が大きい……気付かれたらどうするんだ?」
「クゥンッ……」
レイトに注意されてウルは鳴き声を抑えると、扉を開いて中の様子を伺う。扉の先はまるで絵本に出てくるような悪い魔法使いの実験室のような部屋模様であり、竈の上に巨大な壺が置かれて火をくべられていた。
(なんだここ!?どう見てもやばい雰囲気だけど……あれは!?)
熱湯が入った壺の上にダインが吊るされており、意識を失っているのか目を閉じたまま動かなかった。レイトは彼を助けようと部屋に入ろうとした時、扉の傍に隠れていた何者かが彼に目掛けて棍棒を振り下ろす。
『うりゃあっ!!』
「うわっ!?」
「ウォンッ!!」
ダインに気を取られていたレイトは危うく棍棒の餌食になるところだったが、寸前でウルがレイトの服の裾に噛みついて引っ張り、そのお陰で棍棒を回避することに成功した。
レイトに襲い掛かった相手はダインを連れ去ったと思われる「スケルトン」であり、骨の形からして人間の物であるのは間違いなかった。だが、先日に遭遇した死霊使いによって生み出されたスケルトンとは雰囲気が異なり、今回のスケルトンは妙に艶々としていてまるで作り物のように見えた。
『むむっ!?私の攻撃を回避するとは中々の曲者ですね!!』
「しゃ、喋った!?」
「ウォンッ!?」
『何ですか!!悪霊が喋ったら駄目なんですか!!』
先ほども襲い掛かるときも掛け声をあげていたが、レイトは人語を流暢に話すスケルトンに驚きを隠せない。先日に戦ったアンデッドは生者に襲い掛かるだけの化物で人語を理解すらしていなかった。それなのにレイトの前に現れたスケルトンは人間の言葉を発するどころか受け答えもした。
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