第121話 四人の教皇、大喜利で勝負を決する

「――ならばその勝負、受けて立とう」


 「東の教皇」――クリサンセマム・ジャン・ラネー13世が愉快そうに承諾した。


「よし。では、とっとと最後のお題を言うが良い」


 「西の教皇」――ダイアン・T・カリオフィルス18世が、マジックペンのふたを取り、一層のやる気を見せた。


「ホーキンス、最後のお題を」


「はい。では最後の大喜利のお題です。……『100年目の嘘がバレた!?上手い言い訳とは?』です」


 ナギのお題を聞き、一斉に4人の教皇がフリップに回答を書いていく。


(毎回思うけど、教皇様みんな、回答を書くまでが早すぎるんだよなぁ)


 「南の教皇」――エリザベス・マグノリア・ブルックリネンシス12世の背後に控えるオリバーが、「ハハ」と乾いた笑い声を上げた。


 ピコン! と「北の教皇」――ドリアス・オクトペタラ17世の前で、回答権の札が上がる。


「よしゃー! 俺が最後の先陣を切ってやるぜえ!」


 意気揚々とドリアスがフリップを握る中、ナギが淡々とお題を読み上げる。


「『100年目の嘘がバレた!?上手い言い訳とは?』」


「『ち、ちがうんだ! あの頃はまだ、紙タバコの時代だったから!』」


 ふふん! とドヤ顔を浮かべるドリアスの背後で、「紙タバコに何があったじゃりん?」とヴァン=サリーが首を傾げる。


 ピコン! と間髪入れずに、次の回答者の札が上がる。


「はい、では次は『南の教皇マンマ・リゼ』様の番です」


「いくわよぉ! ヴィ、お願い」


「はい。『100年目の嘘がバレた!?上手い言い訳とは?』」


「『光陰矢の如く、その頭に矢を突き刺しても宜しくてよ?』」


 しんと教皇の間が静まり返る。


「……いや、それは嘘を吐かれた側の回答であろう?」


 ダイアンがツッコむも、ほんわかした表情で、「え? 嘘はダメだし、言い訳なんてもっとダメよぉ」とエリザベスが両手を叩き、大喜利の概念を打ち崩していく。


「ま、まぁ、よかろう。では次はわがは――」


 ピコン! とクリサンセマムの前で、回答権の札が上がった。


「札を上げた方の回答となります。では教皇、『100年目の嘘がバレた!?上手い言い訳とは?』」


「ああ。先にいかせてもらうぞ、カリオフィルス皇。大喜利教皇の実力、ここに示そう――!」


(大喜利教皇とは……?)


 ダイアンの背後に立つリヴァーサルが、顔に出さずとも、心の中で訝しがる。クリサンセマムがフリップを上げた。


「『浮気かどうかは、100年前の常識と法律でもって結審しよう』」


 またもやしんと静まり返る、教皇の間。


「……常識と法律でもってしても、貴様がくそやろうだという事実は変わらない」


 ぼそっと呟かれた言葉は、女性のもの。背後から上がった真っ黒な言葉に、クリサンセマムはハッとした。


「い、いや、違うのだ、ホーキンス。これは大喜利であって、事実ではないのだ。そ、そうであろう? 皆の衆っ……」


 クリサンセマムが慌てて他の教皇達に同意を求めた。


「……いや、浮気は良くないぜ?」

「おイタをするところに、矢を突き刺して差し上げますわ?」

「ざまぁ」


「ざまぁ!? お前は『叡智と気品溢れる、最高の教皇』ではなかったのか!? カリオフィルス皇!!?」

※番外篇「東と西の教皇、相対する」参照。


「ふっ。これは最後の最後でミスを犯したな、ラネー皇。この勝負、吾輩の勝ちだ! ホーキンス――!」


「はいはい。『100年目の嘘がバレた!?上手い言い訳とは?』」


 ほとんど投げやりなナギには目もくれず、ダイアンがフリップを出す。


「『それでも吾輩が愛しておるのは、そなただけだ。……ポ♡』」


「ハイ、では枢機卿による判定のお時間です。一番面白かった回答をされた教皇様の札をお挙げください。せーの」


 ナギの音頭により、一斉に札が上がった。


「北、北、北、北。――ハイ、見事全会一致で『北の教皇』様の勝利です」


「っしゃーーー!!! さっすがは俺だぜえ! なぁ、サリー!」


「そうじゃりん。ドリ様が一番マト……賢い教皇様じゃりん!」


 愉快そうに大笑いする、ドリアスとヴァン=サリー。


「よっしゃ! 勝利の美酒ウォッカで乾杯でもするか!」

「酒ならここにたんまりとあるじゃりん!」


 ヴァン=サリーの懐から、ウォッカの酒瓶が大量に出てきた。


「やっぱお前は最高だぜ、サリー!」


 ガハハ! とヴァン=サリーに抱きつき、グラスを高く突き上げる、ドリアス。その隣では――。


「ぐうっ……、仕方あるまい。この勝負、次回に持ち越しぞ、ラネー皇っ……」


 本気で悔しがるダイアンとは裏腹に、「ほ、ほんとうに違うのだ! アレは誤解で、彼女とはなんにもないのだ、ホーキンス!」と、それどころじゃない、クリサンセマム。つーん、とそっぽを向き、「……どうでもいいです、そんなこと」とナギが頬を膨らませる。


「ホ、ホーキンスっ……! いや、ナっ……ヴィ……」

「ふんっ」


(いや、ナギ呼んだれよ。ナヴィって……)と、リヴァーサルとオリバーが内心で、名前呼びできない意気地なしの男にツッコむ。


 席を立ち、それぞれが主張を繰り広げる中、


「……それでは宴もたけなわではございますが、ここら辺で大喜利大会を閉めさせていただきます」


 収集がつかなくなる前に、リヴァーサルが解散を告げた。


「……おや? そういえば、『南の教皇マンマ・リゼ』様はどちらに……?』


「いつの間にいなくなられたじゃりん?」


 ヴァン=サリーが辺りを見回すも、その姿はどこにもなかった。


「……よもや、教皇自ら出陣するつもりか、ブルックリネンシス皇」


 そう呟いたダイアンの後ろで、シドニアの危機に立ち向かっている旧友に、そっと思いを馳せる、リヴァーサル。


「……願わくば、シドニアの大地よ、永遠に――」


 ◇◇◇

 教会本部ネヘミヤの長い廊下を、一人歩く、「南の教皇」――エリザベス・マグノリア・ブルックリネンシス12世。その手に携えるは、「戦う女教皇」の証――聖剣「エインガナ」。創造と死を意味する、聖なる剣であった。


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