夜型さんのエッセイ帳

阿部蓮南

地元を拠点にお笑いを見る

 数日前に十九歳になったけれど、大学での友達とは繋がりがない。今は私の籍だけが大学にある状態だ。

 今年の三月中旬から四月中旬の間だけ、大阪府内に私の住所があった。「早すぎでしょ」と言われることは目に見えているけれど、もう聞こえているけれど、大学に行けなくなった。覚えているのは、入ろうとしていた演劇部の部員さんと話したこと、ベンチから立てなくなったこと、学生アパートに帰るのも億劫だったこと、新入生だった頃に倒れた経験のある先輩に優しくされたこと、そして家族に電話したこと。翌日には、期限も決めずに新幹線で地元に帰った。休学を決めるのはもう少し先のお話。

 

 新生活を電話で報告していた高校の同級生と久しぶりに遊ぶと、彼女はこう言った。

「大阪でのれなちゃんの行動力すごかったよね」

確かにそう。土曜日に大人でも行ける工場見学に出かけて、日曜日に短歌の集まりに出席したことも。地元の十五倍くらいの本数がある電車、よく利用したな。難波のお笑いの劇場に向かった日がかなり楽しかった。

 名前は「よしもと漫才劇場」だけど、コントも見られる。高校の同級生に尋ねられたときのように、漫才とコントの違いを念のため説明しようと思う。

 

漫才

もちろん人によるけど「はいどーも!」と言いながら出てきて、真ん中に置いたマイクを使って行う面白い「会話」

コント

世間話などを基本的に挟まず、構成と演技に重きを置いた面白い「演劇」

(主観多め)

演劇部に入ろうとしていたけど、好きなのは漫才かな。


その劇場には芸人さんのバッジのガチャガチャ(私はこう呼ぶ)があり、開演前に回した。私のお笑いの知識は中の上、初心者にもガチ勢にも分かりにくいと思うけれど、どちらにも極力優しく書いてみる。引いたのは水色の背景のkento fukayaさん。一人で舞台に立つ、いわゆる「ピン芸人」。普通の人には思いつかない登場人物が、紙芝居のようなネタを形成している。彼はその公演にも出ていた、ラッキー。地元ではテレビの賞レース(若手の登竜門みたいな大会)でしかみたことがなかった。


 実は常設のお笑いの劇場は全国にいくつか、主に大都市にある。他の都市での思い出も話してみよう。東京の劇場は、ルミネの中にある。都民じゃないから分からないけど、あれはデパートですか? 高校二年生と三年生の冬、全国規模の短歌のコンクールで入選していつよりも天狗になった私は、芸人さんの語彙力と世の中を見る力に驚かされる。私ってまだまだらしい。だって前座の一年目の人たちも話題が豊富だったから。

 福岡の劇場は、私が帰ってあっさりと復活した家族旅行の二日目、自由行動の時間を与えられて向かった。その商業施設の横のドーム、夏フェスをしていた。あまりにも混んでいた。開演すると「夏フェス外れたんですか?」の言葉で笑いを取る新人さん、きっと激しい競争を勝ち抜いている。テレビでは気持ち悪いと言われることの多い「ななまがり」というコンビを好きになった。それから、ゲームコーナーで携帯がうまく繋がらなかった私に、「一緒にやりますか?」と声をかけてくれたお姉さんに感謝している。


 生粋のテレビっ子の私は、これからも賞レースをきっかけにお仕事が増える芸人さんたちを見ていたい。その時、年に数回だけの劇場でその人たちを見つけた経験も大切にしたい。推しに貢いだりはしないライトなお笑いファン、これからも楽しく生きます。

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