第17話 近代日本の分岐点?

足利義昭を上洛させた後は、本当に戦の連続だった。三好三人衆に浅井朝倉、本願寺などなど数え上げたらキリが無い。そんな戦の連続の最中でも、時折信長様との夕餉の語らいは続く。


「それで徳なんちゃらたる徳川家康の長い治世で日本はどうなったのじゃ?」


「徳なんちゃら…。うーん、江戸幕府の治世ですか。」


小姓に地球儀を持ってきてもらう。


「先日、南蛮人が持ってきた地球儀を見れば分かりますように日本は小さいです。信長様はあまり気にされておりまするが、彼等の伝えるキリスト教…キリスト教というよりポルトガル国なのですが、後に日本の人間を奴隷として海外に連れ去っていた事例が多数判明します。当時の統治者はそれに激しく怒り、キリスト教禁止令に始まり海外との関係を途絶する鎖国といった政策が取られていきます。」


「ふむ、さもありなん。その気持ちはわかるのぅ。」


「日本は江戸時代という長い間大きな内戦も無く、日本全体で見れば人口は大幅に増え国力が増大します。しかしながら、鉄砲がヨーロッパから伝来したように世界の文明の中心はヨーロッパであり続けました。300年近い閉ざされた平和の間に文明や技術といったものが欧米との埋めがたい差が生まれます。

そして、ヨーロッパ内では沢山の国がありお互い争っていますが、この地球儀には様々な土地が描かれていますが、ヨーロッパ以外の国はほぼ全てヨーロッパの植民地…属国みたいなものに成りはてます。単純に言えば世界各国の植民地から人や資源を奪い、ヨーロッパの発展と戦争に注ぎ込むといった形です。それは隣国、大国である明ですら―この頃は清ですが―例外ではありませんでした。」


ここで一息入れて、お茶をすする。信長様は身を乗り出して興味津々に聞いている。ヨーロッパに近いアフリカ大陸を指差す。


「この時代でもそういった植民行為は起こり始めていましたが、まずヨーロッパに近いアフリカから征服が始まっていたのと、距離の防壁がまだアジアを守っていたのです。アフリカ、南北アメリカ、インド、東南アジアといった具合に少しずつ海外領土を広げ、船や兵器の技術が上がり、とうとう1853年アメリカ国により日本ひのもとに開国を迫る軍艦4隻が江戸の近くまでやってきます。

煙をもうもうと吐く黒塗りの大きな鉄製の軍艦が何門も備えた大砲を―非常に大きな破壊力のある鉄砲だと思ってください―大砲を一斉に撃てば―実は空砲でしたが―異国が攻めてきたと江戸は大騒ぎになりました。

江戸幕府は海外からは開国を迫られ国内の諸大名からは異国船を打ち払えという攘夷論に挟まれます。異国の強さが分かった幕府は開国を決めますが、それを弱腰と決めつけた諸大名に幕府の重臣が闇討ちされたりなどして幕府の威信が一気に落ちます。その黒船来航からたった14年後、天皇を味方に付けた諸大名に江戸まで攻め込まれた幕府は朝廷に政権を返して滅びます。」


「ふむ…あっけないのう。何がいけなかったのじゃ?」


「江戸幕府の事だけで言えば、もう寿命だったのでしょう。300年近く続いた歪みは至る所に出ていたように思えます。」


「そうかもしれぬな。」


「ただ日本全体という視点で見れば…それは江戸時代の後の時代にも関わってくるのですが、日本はそこから欧米に追い付け追い越せとばかりに文明の発展に力を注ぎます。欧米と不平等条約こそ結びましたが、幸いにも日本はヨーロッパの奴隷となる事なく富国強兵に努めます。そして約50年後の1911年(地球儀を指しながら)ロシアというヨーロッパでも強国に数えられる国に勝ち、不平等条約を撤回させ欧米と肩を並べることが出来ました。」


信長様が落ち着きなく扇を打ち鳴らしている。ロシアに勝った場面では本当に嬉しそうだ。


「いやでもこれ本当にすごい事なんですよ。近代まででヨーロッパ以外の世界中の国がほぼヨーロッパ各国の属国や植民地みたいな感じで、ヨーロッパの国に勝つ国なんてどこにもありませんでしたから、その点でも日本は大いに世界に認められたんです。とはいえ…」


ここでお茶を飲んで一息つく。


「そしてここから、世界は二度の世界大戦を経験します。文字通り世界中を巻き込んだ戦争です。第一次世界大戦では7000万人が動員され1000万人程度の戦死者が出たと言われています。日本はそこまで直接的には参戦しませんでしたが、勝利側につき敗者側の太平洋の領土に攻め込み貢献しました。その結果、敗戦国の島を得ることが出来ました。…こんな小さな島を得て何になるのだ?って思うかもしれませんが、太平洋の島々は今ではまだ扱う技術がないのですが、その時代になると必須となる資源を算出する島が沢山あったのです。」


7000万という数に凄まじい数だな…と珍しく信長様が驚いている。


「第二次世界大戦はおよそその20年後に発生します。こちらは軍人だけで3000万人くらいの戦死者とそれに数倍する民間人の死者が発生したと記憶しています。

…この戦いでは日本は敗戦側の主要国でした。日本は資源に乏しいため、環太平洋の資源を求めて起こした資源戦争の意味合いが強かったと思われます。

序盤はこの時点ではとうとう欧米をも凌ぐ技術力を身につけた兵器と日本兵の強さで勝ち進みます。が、やがて欧米の物量と恒久的な資源不足の前に負ける事になります。」


日本が負けてしまってしょんぼりしている信長様。ちょっとかわいい。


「敗れた結果、日本は占領され敗戦後一時的にアメリカの属国―というか保護国ですかね―に数年なりましたが、その後独立を認められます。軍隊の所持は禁止されましたが。

ですが、その後は逆に軍事費がかからず文明の発展に国力の全てを注ぐことができたので、経済的には世界第二位と言われるほどの発展を遂げました。今は少し勢いが落ちて三位くらいですが、世界有数の経済大国になったのは間違いありません。」


「むむぅ…二度目の世界大戦に負けてしまったのは残念だが、しかし見事に立て直したのだな。」


「そうですね。軍隊の所持が出来ないことから、第二次世界大戦後は特に戦争に巻き込まれる事もなく基本的には平和ですし。

で、話を元に戻すと江戸幕府の失敗としては、鎖国をした事によりその分の文明格差を取り戻すのに50年がかかった事、むしろ50年で取り戻せて欧米と肩を並べる事ができたのは凄い事なんですが、長い平和な江戸時代で日本国民の総数が増えていたのはその要因の一つでしょうから、そこは江戸幕府の功績かもしれませんね。しかし文明格差を取り戻せても、世界に資源地を抱える欧米の列強とのその点の差を最後まで埋めることが出来なかったという事になりますかね。」


「なるほどのぅ、今ならば上手くやればヨーロッパの手のついていない太平洋の島々の領有権を無血で主張できるという事か。」


「そうですね。鎖国が無ければ文明差の解消は勿論、海外進出によってある程度の海外領土を得てそこから資源を得れていたのではないでしょうか。

ただまぁ…負けてしまったのは悔しいですし、もし日本がこの時代に資源地を確保できていた未来がどうなったかは分かりませんが、資源地が無くて負けた世界の今の日本は他国に類を見ないほど栄えているので、負けて良かったのかなという気はします。少し間違ってる部分もあるかもしれませんが、現在までの日本の歩みを簡単に説明するとこんなところですね。」


「なるほどのぅ、面白かった。まぁ、今の日本も悪くないという事じゃな。」


最後はちょっとすっきりした信長様になりました。


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新作書き始めたので、以前なろうに掲載した作品を多少の改稿をして新作宣伝用に投稿します。本作は全19話で、全話投稿済です。よろしくお願いします。


↓新作です

何度倒してもタイムリープして強くなって舞い戻ってくる勇者怖い

https://kakuyomu.jp/works/16818093082646365696/episodes/16818093082647161644

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