第10話 呼び出し
えっ。
…そんなイベントいらないんですけど。だって評定って織田家最高会議でしょ。
現代の会社で言ったら、社長以下重役がずらっと出席する会議。そこに呼ばれるってのは、もしかしたらとっても光栄な事かもしれないけど…普通に考えたら嫌過ぎる。
とは言えど、断るなんてもっての外だし、仕方なく着替える。
あれ、着物って男は左右どっちが前だっけ?
着替え終わって、小姓の後に続き板張りの廊下を歩む。
うは、緊張する。
しばらく行くと、ざわざわと騒がしい一角に近付いてきていた。
小姓は廊下の脇に寄って立ち止った。
自分も脇に寄って立ち止ってみた。
「そのまま、どうぞ」
ジト目で促されてしまった。
あ、やっぱりここからは自分一人で行く訳ですか、嫌だなぁ。っていうか人前で…フォーマルな舞台で喋るの苦手なんだよなぁ。
評定の間を遠目に見ると…三方の扉が開け放たれた大きな板張りの広間のようだ。信長様の位置はよく見えないけど、恐らく正面奥の一段高いところにいらっしゃるのだろう。それと垂直になるように重臣たちが向かい合うように並んで座っているようだ。
…例えて言えば、会議室の長机の左右に重鎮が並んで座っていて、お誕生日席に信長様がいて、そこから長机を取っ払った感じだろうか。
もしかして、正面から入ってこの重臣たちが並ぶ間を進んで信長様の目の前まで行かないといけないんでしょうか。そこに長机があったらそこを進もうという考えは微塵も浮かばないのだが(机があるのだから物理的に無理)、そこに長机が無いだけでそこが飛行場の滑走路のように思えて、―あ、左右の重臣たちは滑走路で光る誘導灯ね―そこを歩んでいかないといけない気がしてきた。
にこにこぶーん
と数歩進んで止まる。
いやいや、思考放棄はよくない。よく考えてみろよ、滑走路を進まなくていいだろ。
逆お誕生日席の位置で止まればいいだろ。幸い信長様が正面段の上にいるのだから、そこに相対するその場所…滑走路の入り口は明確な下座だ。
滑走路を進んだら、もうそこはFly High!
首が胴を離れて本当に天に飛びたってしまったかもしれない。ふー、やらかすところだったぜ。思わず額の汗を拭った。
気を取り直して進む。緊張させる観衆を「みんなじゃがいも」と念じるCMがあった気がするけど、重臣達を「みんな誘導灯」と思う事にしよう。そうだ、そうしよう。
そうこうしているうちにもうそこが評定の間だ。それまで何かの議題について話あっていたのだろうが、自分が評定の間の入り口に立つと、ピタッと話し声が止み、諸将が一斉にこちらを振り向いた。
うおー、あれが丹羽長秀かな?で、あれが柴田勝家で、あっちは…滝川一益?こっちは佐久間信盛かな?で、正面に信長様。すげー、ゲームでしか見た事が無い武将達が一堂に!これは戦国ゲームオタとしては感動せざるを得ないね!
(いずれも織田家の有名な武将達)
ってな訳があるか!!!!!!
幾度もの戦場を渡り歩いて何人何十人も…もしかしたら何百何千も斬り捨ててきた強者どもが、無言で一斉にこちらを見たら、こちとらちびるわ!みんな誘導灯とか無理があり過ぎた。
うわーん、書斎に帰りたい
もっといえば今すぐ現代に帰りたい。
現代に帰りたいと今初めて切実に思ったよ。
場違いな場所に来ちゃったよー
とこんな感じで多分自分は随分と青褪めた表情をしていた(逆光のため気付かれなかったと思いたい)だろうところに信長様のお言葉が。
「よくきた。皆の者に紹介しておく。昨日よりわしの客人となった武政じゃ。世間知らずで無礼なところはあるが、わしの客であるからしてそのつもりでな。」
信長様が目で「挨拶でもしとけ」と促している。まぁ仕方ないか。
「ごがっ」
…噛んだ。いきなり噛んだ。
気まずい空気が流れる。信長様はにやにや笑ってる。
うわーん、だから人前で喋るのは嫌なんだよぅ。
「ご紹介に預かりました末次武政と申します。以後お見知りおき下さい。」
なんとか言い切ったぞ、ドヤァ(と書いて「ほっ」と読む)
たった一言だけでこの疲労感。戦国時代まじパナイッス。
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新作書き始めたので、以前なろうに掲載した作品を多少の改稿をして新作宣伝用に投稿します。本作は全19話で、全話投稿済です。よろしくお願いします。
↓新作です
何度倒してもタイムリープして強くなって舞い戻ってくる勇者怖い
https://kakuyomu.jp/works/16818093082646365696/episodes/16818093082647161644
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