義妹とはじめる甘々生活

桜井正宗

1.Living together with my stepsister

◆脱ぼっち!! 義妹と同棲生活 - No More Loneliness!! Living Together with My Stepsister

 目の前に見知らぬ美少女がいた。

 裸の……いや、正しくは半裸の。

 その細い体にバスタオルを巻いていた。

 こぼれ落ちそうな豊満な胸。

 それは兵器と言われても違和感がない。


「「……え」」


 俺は名も知らぬ少女と目があった。


 てか、ここ俺の『家』なんだけど――?



「きゃあああああああああああぁぁッ!」



 叫ばれても、ここは俺の家なんですけど――!!


 困ったことに少女は絶叫した。ジェットコースターの急降下のような叫びで。

 近所迷惑すぎるッ!



「……まてまて。誰だ」

「ご、ごめんなさい。お風呂借りてました」

「いや、だから君はなんでウチにいるの。ここ、俺の家なんだが」

「あ、ああ……。わたしはじゅんといいます」


 へえ、可愛らしい名前だなって――違う。

 確かに彼女はスタイルも良くて可愛いけど、そこじゃない。これは不法侵入では……? いや、だがこんなアイドル級の女の子なら大歓迎だけど。


「純菜ちゃんね。で、警察に通報した方がいいかな」

「それは止めてください。わたしは、あなたのおじさんの紹介で来たんです」

「おじさんの?」

「はい。あなたの義理の妹にしてもらうために」


 俺の思考は停止した。

 このコは今、なんと……?


 義理の妹?

 チョコじゃなくて?

 今は二月ではないし……四月の春後半。


 ということは本当に義妹としてやってきたのか。

 いやだけど、俺はおじさんから何も聞いてないぞ。


「なんのことだ……」

「電話で確認してもらっても大丈夫です。本当のことですから」

「マジか」


 念のためと考え、俺は直ぐに電話した。

 スマホを耳に当てしばらくすと――。



『どうした、りゅうせい。珍しいな』

「俺の家に義理の妹を名乗る少女が現れた。説明してくれ」

『そのことか! そうだな。純菜ちゃんをお前の家に送った』

「どうしてだよ」


『どうして? お前が万年ぼっちで寂しそうだったからな。義妹がいれば人生を変えられるんじゃないかと、余計なお世話をしてみた』



 本当に余計なお世話だよ! と、言いたいところだが……。正直ありがたかった。おじさんの言う通り、俺はずっと孤独ぼっち

 家族も友人もいなかった。

 唯一頼れるのは、親戚の株本おじさんだけ。


 株本かぶもと りゅういちろう


 俺に『龍』の一部を与えてくれた名付け親のひとり。

 おじさんのおかげで俺は一軒家に住めていた。独り身だけど、そこそこ不自由のない暮らしができていた。

 学費や税金だとか、全部おじさんが処理してくれた。本当の親のような存在だ。



「俺はどうすればいい……」

『自分で考え、自分で決めるんだ。龍聖、お前はもう立派な高校生だ。あと二年あるが、ひとりぼっちで過ごすには惜しすぎる。お前の人生はこれからだ』


 そこで『――ガチャッ』っと電話が切れた。

 切りやがった!!

 良いこと言っているようだけど完全に投げたな……。

 もう一度掛けなおしても『留守番電話です』となって繋がらなかった。逃げたな!



「…………どうしましょう」



 少女は困っていた。

 俺も困っているんだが。



「君、住むところがないのかい?」

「はい。わたしはひとりなんです。頼れる人がいなくて……」


「…………」



 俺と同じか。

 同じか分からんけど、でもその瞳に嘘があるようには見えなかった。

 彼女の瞳はどこか寂しそうだ。

 今にも泣いてしまうんじゃないか。

 そう感じた。



「仕方ないな」

「いいんですか?」

「追い出すわけにもいかないし。おじさんも言っていたしさ」

「ありがとうございます……!」



 ぺこぺこと何度も頭を下げる純菜。

 ……くそっ、女の子とまともに話したことがないから……扱いが難しいな。目線も合わせられない。



「住むなら家事をしてもらう」

「もちろんです。お料理、お洗濯なんでもやらせてくださいっ」



 やる気は十分か。

 でも、彼女は俺の義理の妹になるんだよな……。

 ぜんぜん実感が湧かない。


 今この瞬間に義妹なのか。

 分からん。

 分からなすぎる。


 彼女だって年齢イコールでいなかった俺だぞ。なにをどうしたらいいんだ。



「分かった。……とりあえず、呼び方から決めよう」

「わたしのことは純菜と呼び捨てでお願いします」

「……お、おう。俺のことも名前でいい。龍聖だ」

「カッコイイ名前ですね!」

「おじさんの一部から取ったらしい」

「へえ~! でも“お兄ちゃん”って呼びますね」


「……ッ!」


 やっべ。思わずドキッとした。

 人生でそう呼ばれるのは、これが初めて。

 姉も妹もいなかったからな。とても新鮮だ。

 妹……妹か。

 いいかもしれないな。


 そうだ。

 おじさんの言う通りだ。


 脱ぼっちするいい機会じゃないか俺。

 なにか変わるかもしれない。

 義妹と同棲生活、してみようじゃないか。



「ど、どうしました?」

「そ……その。敬語じゃなくていいよ。他人行儀はやめよう。今日から兄妹だからな」


「……う、うん。慣れないけど、がんばるね」



 多分、俺が一番緊張している。

 表面では冷静を装ってはいるけれど、本当はヤバイ。心臓がバクバクしている。

 


「お、おう。ちょっと顔洗ってくる」



 もう限界だった。

 彼女の存在はまぶしすぎる。

 なんて神々しいんだ。


 急いで洗面所へ向かい、俺は顔を洗いまくった。


 ……ふぅ。落ち着いた。


 純菜、か。

 義妹になったんだよな。


 やった……やったぞ。

 あんな可愛いコと同棲生活が送れるなんて夢のようだ。しかも義妹だって!? 願ったり叶ったりだよ。


 がんばろう。がんばって俺もあのコも幸せになるんだ。


 もうなにも失いたくない。

 失わせないためにも――俺は。


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