第2話



 私は凡て、忘れている。私はまだ、覚えている。

 曖昧で複雑な記憶は、またとなく血を駆け巡る。



「うう。頭が痛い。」

「大丈夫ですか、お嬢様。」


 頭が痛い。すごく痛い。

 つらい。


「ねえ、エミリー。あなたはだぁれ?」

「お嬢様、大丈夫ですか?幻覚ですか?」


「うぅ!」

「お嬢様!?」



 私は、ルージュ・リリィ。そして、黒野薫だ。


 今、私には、日本で生きて15歳で死んだ薫の記憶と、貴族の5歳であるリリィの記憶がある。


 これは、異世界転生になるのだろうか。

 二人の記憶が重なり、薄れていく。人間の頭では二人分の人生を覚えることはできないらしい。


 私は15日ほどかけて全ての記憶を取り込んだ。

 熱が引いたのも、ちょうどその辺りだったらしい。


 遅いと思うかもしれない。

 でも、一日に一年分の記憶が頭に入ってくるのだ。


 十分早い気がする。

 これで、15年間植物状態とかだったら、最悪だ。


「お嬢様! 起きられたのですか!?」

「え、エミリー? おはよう。」


 頭がモヤモヤする。

 まだ、どこか非現実の香りがする。


 あ、エミリーの匂いだ。暖かな太陽みたいな匂い。

 嗅いでると、安心する。抱きしめよう​。


「お、お嬢様。お母様に報告してもいいですか?」

「だめ。まだ、待ってて。」


 エミリーは暖かい。安心できる。


「お、お嬢様、力すごいですね!?」

「そんなことないよ。愛の力。」

「あ、愛?」

「そう。愛。」

「?」


 あ、ダメ!行かないで!


「すみません、お嬢様。報告に行かないとお母様に怒られてしまいますので。」

「うっ!ひどいよ!」

「お嬢様なら大丈夫です。少し待っていてください。」

「あぁ。」


 バタン


 また、閉じ込められた。

 閉鎖空間。誰もいない場所に。

 

 寒いな。


 あ、でも暑い。


 気持ち悪い。





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