第6話 人ならざるもの(二)
「
「…………」
「私が稔流に加護を授けたのは、神隠しよりもずっと前のことだよ。覚えるも忘れるも
「…………」
さくらが、稔流の顔を
「夏祭りで、たこ焼きを一緒に食べるか?」
「悪かったね
「悪くないと言っただろう。未来の
私の稔流とかこの世で一番大切とか花婿殿とか、綺麗だと
何をどうしたってさくらの方が上手で、その小さな
かといって、からかわれている訳ではないことも、稔流はわかっていた。
さくらは、ただとても
「私は、
「そこまでしなくていいよ!俺はさくらのお陰で無事だったんだから」
「…と稔流が止めるから、しなかった。そういう
さくらは
「でも、私は稔流が思っているような、心優しい存在ではないよ。人間が古くから妖怪を
「………っ」
やっと再会出来たのに、思い出せなくてもいいと言う。
思い出して
もう、わかったのに。稔流が幼なじみと言った時、さくらが不機嫌に見えたのは、怒ったからではないのに。
本当は、悲しかったからだ。悲しみを
「誤解して傷付くのは、俺だけじゃない、さくらだって……!」
「あらまあ、稔流ちゃんかい?」
稔流は、夢から現実に引き戻されたような気がした。
「…ひいおばあちゃん」
記憶よりも小さく見える
「よう来たねえ。すっかり大きくなって」
「…こんにちは」
やはり、
小さい頃は、
「お友達と一緒に上がりなさいな。…どれ、お菓子はあったかの」
「え…?」
稔流ははっとした。
「さくら…?」
さくらの姿は、そこになかった。確かに、稔流はさくらの手を
さくら自身も、満開の桜の木も、
「ううん…俺ひとりだよ」
「あら、そうなのかい?お
「……!」
曾祖母には、ふたり分の声が聞こえていたのだ。稔流に初めて座敷童の話を聞かせてくれたのは、曾祖母だった。この古い家には、昔から座敷童が住んでいると。
曾祖母自身はその姿を見たことは無かったけれども、誰もいないはずの部屋で物音がしたり、
(ひいおばあちゃんは、こわくないの?)
(小さな子供だし、楽しそうにしているから
(それに、座敷童のいる家は栄えるって言われていてね、この家の者は食べるものに困ったことはないし、
昔は一家全員が病気で全滅することもあったという恐ろしさを、幼い稔流は理解してはいなかった。
でも、座敷童は時々
そして、まだ5歳だった稔流が突然行方不明になり、家族だけではなく村のたくさんの大人達が山に分け入り
(神隠し)
(
(
稔流の記憶では、知らない子に遊ぼうと言われて、かなり強引に連れ去られたものの、始めは楽しく遊んでいたのだ。でも、日が
そのままならきっと、幼い稔流は死んでいた。でも、さくらが助けてきてくれたから、次の日の早朝に戻って来ることが出来た。
……はずが、どうやら1週間も稔流は姿を消していたことになっているし、ヒーローみたいに格好いいと思っていた気丈な母まで稔流を抱き
(みのりみたいに、もう戻って来ないんじゃないかって――――)
「稔流ちゃん、お
「……え」
抱き締めた時には全く気にならなかったし、多分無くなっていたはずなのに、その前にさくらの手首を
「えっと…」
ひとつだけでは、お
「ごめんなさい……もらいました……」
誰から、の部分を言わずに、ぎくしゃくして敬語。
「そうかい」
曾祖母はあっさりと
「そういうことも、あるかもしれないねえ。暑いから、麦茶でも飲んでいきなさい」
「……うん」
稔流は、久しぶりに土間に入って柱を見上げた。
家同様にかなり古いであろう
でも、本当は美しい女性であったろうに、鬼と化した
――――何だか、悲しそうだ。
幼い日とは、違って見えた。
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