草むら・遊ぶ・雲

冬野原油

三題噺8日目 眠い

 羊に恋をした女は自らの身も羊毛で包み、四本脚で暮らし、草むらを駆け回って遊び、肉を拒みました。村人たちはそんな女を馬鹿だと噂しましたが、女は羊とともにいるだけでこの上なく幸せでしたので、なんの問題もありませんでした。

 これをご覧になった獣の神様は、己のかわいいかわいい子である羊と、自然を犯し獣を喰う醜い人間の娘とが交わるのを恐れ、この女を殺そうとされました。しかし人もまた獣の一部であると天上の神様から諫められましたので、女から人としての知恵を奪うにとどめました。また、それを見た天上の神様は女の身を案じ、長すぎる寿命を引き取ってくださいました。こうして女は人間の身でありながら、羊とともに生き、羊とともに死ぬことができました。


 この女の両親はこれをひどく悲しみ、信仰を捨て、領主に以上のありさまを訴えました。

「恥ずかしながら、包み隠さず申し上げます。私たちの娘はとても愚かでありました上に、神々は目先のなぐさみのためあろうことか娘から人間らしさを奪い取り、早々に殺してしまわれた。代われるのなら地獄の業火に永遠に焼かれるも構わぬほどいとしい娘でございました。村には将来を約束した男もありました。これから先もこの悲劇が繰り返されるかもしれないと思うと眠れぬほどにやり切れません。どうか神々を討ち取るたびに出るお許しをくださいませんか。このままでは、第二、第三の娘が出るのも時間の問題でございます」

 領主は「さっさと村に帰って次の子でも作れ」と言われました。両親は失望のまま帰途に就き、雲を見るたびに娘を思い出し、長い寿命の間悲しみ続けました。結局死んでも死にきれず、幽霊の身となって神を追いました。人間の手が神に届くことはありませんので、この旅は今も続いております。

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草むら・遊ぶ・雲 冬野原油 @tohnogenyu

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