第46話 険しき道で
ぼくたちは険しい崖の前に立ち、覚悟を決めて登り始めた。
ヒノキ様は誇らしげに胸を張り、
「さあ、妾が先に登ってやろう!この崖など最高神にとって朝飯前じゃ!」
と先頭を切った。
ユウは冷静に「ヒノキ様、気をつけてくださいね」と声をかけ、後ろからついていく。
最後尾のイロハ先生は、
「ま、最高神様には遠慮してあげるわよ」
と、軽口を叩きながら、
「それにしても、こんな崖しかないわけ、お医者様への道は」
と、こぼした。
「そんなことあるわけないじゃろ!」
今度は上から、ヒノキ様の声が聞こえてくる。
「アイツはな・・・。シキミというやつは、一風変わった坊主でのぅ。仏の道を志したにも関わらず、修行などしているところを見たこともない。とにかく、苦しいことが好きではないんじゃ。アイツがこんな断崖を登るはずがなかろう」
「ってことは、他に道があるってこと?」
「だから、そう言っておろう。これは、ただの近道じゃ!さあ、つべこべ言わず登るのじゃ」
ヒノキは上機嫌で、岩肌を軽やかに登っていく。
ぼくらもそれに続いていく。
時折、強い風が吹く。
おあっ!と。
「ユウー!大丈夫??」
下からイロハ先生が気遣ってくれる。
「うん、大丈夫!」
なんとか、風をやり過ごす。
「ふん。まだまだじゃのう」
と、上からヒノキ様が見下ろしてきた。
・・・
もうどれくらい登っただろうか。
もうすぐ着いてもいいころなんだけど・・・。
風は冷たくなり、雪が舞い始める。
ここまで、サクサクと登ってきたヒノキのスピードが緩慢になった。
「ヒノキ様、どうしたんですか?」
「大したことではない。妾は最高神なるぞ。ついてくるのじゃ」
「そうは言っても、ヒノキ様。明らかにペースが・・・」
ぼくは、ヒノキ様がちょっと強がっているようにも感じた。
イロハ先生もその異変に気づいたのか、
「そうね、私たちもずっと登ってきたもの。少し休憩しましょう」
と提案をした。
ぼくたちは、岩壁のくぼみに3人で腰をかけた。
眼下に広がる絶景と、雪がちらつく。
「うぅぅ゛」
ヒノキ様の様子が明らかにおかしい。
「もしかして、体調がすぐれない?」
「いや、大丈夫じゃ。少し休んだら、いくぞ」
と言いながら、岩陰に隠れてちぢこまった。
「はぁ、素直じゃないわねぇ」と、イロハ先生は全てを察した様子で、小声でつぶやいた。
イロハ先生は、自分の羽織を脱ぐと、ヒノキの肩にそっとかけた。
「妾に上着など・・・」
と、一度は断ろうとしたものの、
「すまん」
イロハはその様子を見て微笑んだ。
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