第45話 エノキとヒノキ

「エノキはのぉ・・・アイツは、もう本当にマジメで、バカ正直での。来る日も来る日も刀を振って、稽古に励んでいたのじゃ。いつもいつも一日中な。まぁ、妾は、生まれながらにしての最高神。稽古をするには及ばない。ただ、アイツが無心になって稽古する姿にのぉ、どういうわけか森の動物たちや他の精霊たちが心を打たれたようで、いつしか信頼を集めていったんじゃ」


「はんっ。さっすがエノキさん。アンタとは違うわね」


また、イロハ先生がつっかかる。


ヒノキ様はグッとこらえて続けた。


「妾もまた、そんなエノキの姿に一目おいていたのじゃが、あまりにも最高神である妾よりも民たちの信頼を集めるのでな・・・。それが腹立たしくなってな・・・」




・・・


「2万8千31!! 2万8千32!」


エノキは素振りをしている。


「おい、エノキとかいったか?」


「おっす!貴殿は確か・・・ヒノキ殿っすな!こうして話すのは初めてっすな」


「いかにも。”最高神”のヒノキである。ひとつ訊く。なにゆえそなたは刀を振るう?」


エノキは、素振りしている手を止めて、ヒノキに向き直った。


「自分は、世界を見たいっす」


額の汗をぬぐいながら、エノキはさわやかに応えた。


「ふむ。世界?」


「そうっす!世界っす!この森の中も、森の外も全部が見たいっす!」


「何を世迷いごとを。森の外に行こうなどと、笑止千万。森の外に出れば、我々は生きることは難しいのは知っておろう?」


「もちろん知っております。人は、我々樹木にとってはとても厄介な存在かもしれないっす。ただ、自分はかつて聞いたことがあるっす。ずっとずっとずーっと昔のことっすけど、この世界には、動物や精霊と人間たちが一緒に暮らせる場所があったって。自分は、その地が今もあると信じているっす」


「ふんっ!そんな話なら妾も当然知っておる。”サトヤマ伝説”。楽園の物語であろう?そんなのは、迷信じゃ」


「迷信かもしれないっす。でも、自分はその楽園をこの目で見たいっす!」


「ますます気に喰わぬ。おい、エノキとやら、妾と勝負をするのじゃ」


「え、しょ、勝負??」


「あぁ、勝負じゃ!決闘じゃ!」


「自分には、ヒノキ殿と戦う理由なんてないっすよ」


「ええい!関係ないわ!妾にはあるんじゃ!決闘じゃ決闘!」



・・・

・・・


「え!ヒノキ様とエノキさんが決闘!?」


「まあ、エノキさんの圧勝だったでしょうね。なんせ努力の積み重ねが違うわ」


「しょ、勝負の行方はどうなったんですか!?」


早く続きが聞きたくて仕方がない。


・・・

・・・


「刀を抜くんじゃ、真剣で来い、真剣で!」


「自分には、戦う理由はないっすよ」


「こちらにはある!そなたから来ぬのなら、こちらからいくぞ!」


ヒノキの手から、燃え盛る火炎が放たれる。


「はぁぁぁぁぁああっ」


ゴォォォォォオオオ!


「あっつ!」


「はっはっはっはっ!どうじゃ妾の精霊術は。恐れ慄くがいい!はっ!!」


2撃目。


ガキィィィィン!


エノキは、刀を引き抜き、エノキの炎を受け止めた。


「くっ!あちちちちち」


「そなた、なぜ避けぬ」


「ヒノキ殿。それ以上放てば、この森が焼け焦げてしまうっす!」


「ふん!知ったことか。森の英雄気取りか!ますます気に喰わん!!そらそらそらそらぁぁぁぁ!!!!」


「くっ!!このままでは、自分もこの森も危ないっす。やるしかないっすね」


エノキは両腕に力を込めた。


「風よ!起これぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ブォン!


エノキが、刀を下から振り上げると、強い上昇気流が起こった。


炎はたちまち森の外へ追い出され、消えていった。


「妾の業火をたった一振りで。そなたの剣技。ただものではないな」


「いやぁ、ヒノキ殿の炎もすごかったっす。これ以上ない稽古になったっす」


「稽古?妾の業火が、稽古だったと?」


「いや、そういう意味で言ったのでは・・・・!」


「はっはっは!よいよい。気に入った!エノキよ。そなたの実力は認めよう」

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