第35話 味の記憶
記憶。
ぼくは、物心ついたときから、おじいちゃんに育てられた。
だから、自分の両親のことをあまりよく知らない。
「おじいちゃん。ぼくのお父さんはどこにいるの?お母さんは?」
「ふむ。そうじゃな。どこにいるのかのぉ」
「いつ、帰ってくるの?」
「ふむ。いつか帰ってくるかのぉ」
「どうやったら、会いに行けるの?」
「ふむ、どうやったら会いにいけるかのぉ」
おじいちゃんに、両親のことを尋ねると、いつもおうむ返し。
忘れてた。
ヨコグラ師匠のおむすびを食べるまで、すっかり忘れてた。
両親との思い出。
あぁ、なんで忘れていたんだろうか。
顔もよく思い出せないんだけど。
確か、あれは外で。
たくさんの色があって。
木があって。
「おい、そんなに走ると転ぶぞ」
「ユウったら、あんなに跳んで跳ねて。よっぽどこの場所が好きなのね」
「あぁ、でも、この生活も、もうおしまいだな」
「えぇ。でも、あなた。また、私たち、こうやって家族で森を歩ける日が来るわよね」
「・・・そうだな」
「母ちゃん、父ちゃん!こっちこっち!!」
「おい、ユウ、あんまり遠くへ行くなよ。それより、そろそろごはんにしようか」
「ユウ。今日はね、お弁当に”おむすび”をつくってきたのよ」
うう。
ぼくは、大馬鹿者だ。
おむすびと出会ったのは、今日がはじめてじゃない。
母ちゃんが。
母ちゃんがにぎってくれたおむすび。
なんで、ぼくは忘れてしまっていたんだろう。
「ヨコグラ殿ぉぉぉぉぉ!ヨコグラ殿が握ってくれたおにぎり、最高っすなぁ」
「えぇ、ヨコグラさんのルミナがこもっているわね」
「はい、腕にヨリをかけて作らせていただきました。おむすびは、握ったもののルミナがこもっていきますからね。 今朝は、 私自身、星見川で身を清めさせていただき、お米に触らせていただきました」
「ヨコグラ師匠・・・ヨコグラ師匠のお料理はなんでどれもこんなに優しいのですか?」
「私めのお料理をそんなに褒めてくださるなんて。光栄です。少し長くなりますが、私めのお料理との出会いのお話、少しさせていただいてもよいですか?」
「はい!」
「うん、聴きたいわ!」
「ヨコグラ殿のお話とあらば、自分も聴かせてほしいっす」
「古いお話です」
そう言って、ヨコグラ師匠は語り始めた。
「あれは、私がまだ樹木だったころのお話です。この地は、星が降って、一晩でその土台が形成されました。谷ができて、川が流れて、星の成分が含まれて。肥沃な土地となりました。星には、種子がくっついていて、星がこの地に落ちるとともに、あちらこちらに散布されたのです」
「これが有名な、”星散布”ね」
「はい、そうです。さすがでございますね、イロハモミジ様。私たち生きとしいけるものは、どうにかして、子孫を残そうとします。種子を撒き散らすのです。私め共は、どこか自分たちが繁栄できる場所を探して、ずっと宇宙を彷徨っておりました。そして見つけたのがこの地球だったのです」
「ひぇぇぇぇーー!世界を行脚した自分も、さすがに宇宙は行ったことがないっす。ヨコグラ殿は、別の星からやってきたったことっすね」
「はい、そういうことになりますね。私めもまた、その種子のひとつなのです。この地は、本当に住み心地のよいところで、私はすくすくと大きくなりました。その当時は動物や虫たちもたくさんおりました。みんな、私めに優しくしてくれました。そんなこんなで、この土地には、珍しい植物や動物がたくさんおりまして、アステリオのご先祖様もこの地で生まれたのです。そして、次第に人間も往来をするようになりました」
ヨコグラ師匠は続ける。
「そして・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます