第33話 森時間

あぁぁぁぁぁぁあ。


ほんっとによく眠った・・・



は!



ヨコグラ師匠からのご指南を仰がねば!!


じ・・・時間は??



あわてて、アステリオの中から這い出して、外を見るが時間がよく分からない。

この部屋が


「なんすか、騒々しいっすなぁ」


「エノキさん!?あ、エノキさん!!今、何時ですか?」



「あぁ、時間っすね。あんまり森の中では、時間というものを気にしないものっすよ。それは、人間が発明したものっすから。森の中では、明るくなれば朝で、暗くなれば夜、それだけっす。じゃあ、自分はまた眠るっすね」



「ええええええ、エノキさん。起きてくださいよ!じゃあ、今、朝なんですか、夜なんですか?」


くぅー。くぅー。


「あ、寝ちゃった。ちょっと、エノキさんってば!」


「なによ、ユウ。うるさいわね。」


「ああああ、イロハ先生!ぼく、やらかしてしまったかも。ずいぶん長い時間眠ってしまっていたような。今、朝なのか、夜なのか」


「あぁ、そうね。ユウは、都市時間で生きているものね。そうね、その時間で言うなら、まだ1時間くらいしか経っていないわよ」


「えぇ!1時間!?」


「うん、そうよ。森の時間の流れは、都市時間と比べるととてもゆっくりなのよ」


「ちょっと待って。時間の流れって、場所によって速さがちがうものなのか?」


「ユウも感じなかった?ユウがこの森にやってきて、きっとたくさんのことが起こったと思うんだけど、この『昴宿よこぐら』に来るまで、たった1日の内の出来事なのよ」




そう言われてみればそうだ。




ここまでの景色が思い浮かんでくる。




「おばけ橋」を渡り、スギの精霊の女の子に出会い。


かずらに巻き付かれ、イロハ先生やエノキさんに出会って。


アカガシのじっちゃん。


怪異の存在。


そして、ヨコグラ師匠の格別なおもてなし。



そういや、イロハ先生やエノキさんともずいぶんと長いこと旅をしているような錯覚があったけど、まだたった一日だったんだ。


「だから、心配ないの。それにアステリオの中で眠るんですもん。時間は、とってもゆっくり流れるわ」



「この星ふくろうと眠るってのは、もふもふの寝心地以外にも意味があるっていうことなの?」

「正解!まあ、時間の流れの感じ方はそれぞれ。相対的なように見えて、そうではないの。大きな動物は、とっても長生きするのよ。アステリオもきっと・・・そうね、すでに60〜70年は生きているんじゃないかしら」


「えぇ、よぼよぼのおじいちゃんじゃないか」


「それは、人間からすれば、途方もなく長い時間のように思えるかもしれないわ。でもね、アステリオ自身は決して、そのようには感じてない。それが、アステリオの普通だから。ねー、アステリオ」


イロハ先生は、アステリオの羽毛に顔をうずめた。


「アステリオの中に流れている時間がゆっくりで。でも、本人にとっては、決してゆっくりではなくて。でも、ぼくたちにとっては、長く感じて。なんだかわけがわからなくなってきた」


「もう、ユウはすぐ頭で理解しようとするんだから。もっと感じなさい。森の声を聞いたとき、あなたはもっと自然体だったわよ。自然と一体化してた」


たしかに、スギに襲われたあのときも、アカガシの過去が自分の中に入ってきたときも。

聞こうと思って、聞いたってよりは、自然と流れ込んできたような感じだった。


「アステリオと一緒に眠ると、アステリオの時間の流れを自分の中に取り入れることができるわ。眠っているときは、一番自然体だもの。血液の流れ、ルミナの流れ、時間の流れ。そういう流れを感じやすくなるの。だから、もう朝かなぁと思っても、まだ1時間。ユウの中にもアステリオの時間が入ってきてるってことよ。歴代の杜人さんたちも、こうしてゆっくりと疲れを癒していったのね」


そうか。

きっとおじいちゃんも・・・


ぼくは、森に消えたじいちゃんは、

正直なところもうこの世にはいないと思っている。


旅立ったのは、今からもう15年も前のこと。


でも、もしかしたら、

森の時間の中で生きていたら、まだ杜人としておじいちゃんは・・・


この森の中のどこかで、生きているのかもしれない。


あぁ、おじいちゃん、話したいことがいっぱいあるよ。


教えてほしいこともいっぱいだ。


もし、おじいちゃんがまだ生きているなら、ぼくはこの森でまたおじいちゃんに会うことができるのかもしれない。


「ありがとう、イロハ先生」


「いえいえ、どういたしまして。だからね、ユウ。思う存分今はおやすみない。自分がもうこれ以上は眠れないって思ったくらいがちょうどいいくらいよ」

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