第28話 支配人の手料理

ひぇーーーっ!


驚いた。


食卓は、一枚板の大きなテーブル。


これを切り出すってことは、この樹の大きさはどれくらいのものだったんだろう。


ん?なになに?


食卓にメモのようなものが置いてあるぞ?


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[お品書き]

前菜  : 星粒のサラダ

スープ : 月光茸のスープ

魚料理 : 星涙魚の蒸し焼き

肉料理 : 霜夜鹿のグリル、星草ソース

パスタ料理: 流星小麦の手打ちパスタ、星砂のソース

デザート : 星影果実のコンポート

ドリンク : 星辰茶

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!?


・・・!?


み、見たことのないメニューだ。


一周回って、もはや気味が悪いぞ。


食べられるのか、果たして。




まあ、どうせ名前はいろいろだけど、中身はザックスなんだ。


さっきの天の川ソーダは、確かに、お、おいしかった。


おじいちゃんから森のおやつをもらった時以来の感動があった。


でも、ぼくは、仮にもザックスレストランの経営者だからな。


ザックス料理に関しては、ちょーっとうるさいぞ。


「まぁ、すてきね!楽しみね、ユウ、エノキさん」


「よよよよヨコグラ殿の手料理っすか?!」


「はい。左様にございます、エノキ様。食材の調達から調理にいたるまで、私めが担当しております。お口に合えばよいのですが。本当は、料理の上手なスタッフがいればと思うのですが、。なにぶん、私めの故郷の料理でございます。お客様のお口に合えばよいのですが」


「メメメメめっそうもないっす!残さずいただくっす!」


ヨコグラノキはニコっと微笑んで、料理を運んだ。


「前菜の『星粒のサラダ』にございます」


コトっ。


置かれた皿を見て、息を呑んだ。


なんだこれは・・・


葉っぱじゃないか!!


おい、またぼくに葉っぱを食べさせようってのか。


今日は、かずらも噛んだし、葉っぱのコップで川の水も飲んだし、冗談じゃない。


これ以上、罪を重ねろっていうのか。



「まぁ、なんてきれいなお料理なのかしら!」


イロハ先生、だから浮かれ過ぎ。


「はぁぁぁぁ!見事っすなぁ、ヨコグラ殿ー!」


エノキさんまで・・・。


「ありがたきお言葉」


いやいやいや、このまま流されるわけにゃいかん!


なんなの、ヨコグラ伯爵!


ってか、この宿大丈夫なのか、こんな料理を提供して。


「ちょっ、待って!これを食べろっていうのか!!これはぼくが見てもわかる。ザックスじゃない!葉っぱじゃないか!」


「はい、ザックスという食材は存じかねますが、こちらは星水で育った透明感のあるムーンレタスに森の果実を使ったサラダでこざいます。ドレッシングには、星屑のミネラルの結晶を散りばめております。ユウ様、何かお嫌いなものはございましたか・・・?」


くっ。


ぼくは、礼儀にもうるさい。


出された食事は残さず食べる。


それがモットーだ。




自分でも経験がある。


ザックスレストランで提供した料理がほとんど手をつけられずに残されてしまったあの悲しさを。


あのあと、皿を片付けるのが、なんだか虚しくて。


だから、ここで残すわけにはいかん。


「いえ、キライナモノハ、アリマセン」


「ちょっとユウ!大丈夫?なんだか顔が引き攣ってるわよ」


「ユウ殿が食べないなら、自分がいただくっす!ヨコグラ殿の手料理、絶対おいしいっす」


お、おいしいか。


そうだよ。


ぼくは、「おいしい」を届けたくて、ザックスレストランをはじめたんだよ。


もし、これが「おいしい」なら、研究のしがいがあるってもんだ。


それが、ザックスレストランの経営者であるぼくの料理道だ。




「せーの!いただきます」


「ちょっと、まだ心の準備g・・・」


エノキさんとイロハ先生のペースに巻き込まれてしまった。


「わーーーーー!なんておいしいの!新鮮ね!ムーンレタスのシャキシャキ感。栄養が、とくにルミナが豊富に含まれているのを感じるわ」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!これは、ヨコグラ殿ぉぉぉぉ!最高っす!ドレッシングだけ、ドレッシングだけでもゴクゴク飲めるっすーーーー!」


「い、いた、いただきます」


おそるおそるフォークで、ムーンレタスをさしてみた。


シャキ


手に伝わる感覚。


フォークの刺さった穴の隙間から、水分が弾け散る。


ムーンレタスを口元へ持ってくる。


口を開けて、フォークでムーンレタスを運びこむ。


口を閉じる。


噛む。


おそるおそる、噛む。


シャキ


なんだ、この歯ごたえは。


森で噛みちぎったかずらとも全然違う。


それに、くささもない。


シャキっ、シャキっ


噛みたくなる、何度も。


シャキっ、シャキっ


いいのか、噛んで。


シャキっ、シャキっ


気がつけば、またフォークがお皿に伸びていた。




今度はドレッシングをつけて。


「ユウ殿ーーーー!うまいっすなぁーーーー」


ちょっと、エノキさん・・・。

今は、無視させてください。



星粒のドレッシングがムーンレタスにからみついて照り輝いている。

したたり落ちるドレッシング。


パクっ


一気に口の中へ放り込んだ。


そのとき、ぼくは、全てを理解した。


あぁ、この一皿にザックスはほんの1ミリも使われていない。


間違いない。


来る日も来る日もザックスばかりを扱ってきたぼくには分かる。


どんな調理方法でも、ザックスではこの味を作り出すことはできない。


「ヨコグラ伯爵!早く次の皿を!!」

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