第26話 熱風呂
は、夢か。
「おじいちゃんとの思い出、昔の話をまた思い出したな」
ずいぶんと長いこと浸かっていたかな。
そろそろあがるか。
ザバーン。
「それにしてもいい湯だった。この『星くずの湯』も、星水を使っているんだろうな」
身体が軽い!
疲労がすっかり抜けて、今なら星のように空にだって受けそうだ。
脱いだ服の隣に、いつのまにか真新しい着替えが用意してあった。
これは・・・
こうやって着るのかな?
大浴場の外へ出ると、ちょうどイロハモミジとエノキが出てくるところだった。
「はぁー、もう最悪だったわ。せっかくの星くずの湯だっていうのに」
「まあまあ、イロハ殿。そうかっかなさらずにっす。お!ユウ殿。その格好はなんすか??」
「え!!」
ちがう、おかしい。
明らかに自分と同じ服を来ているエノキさんとイロハ先生なのに、自分と着方がちがう。
「ユウ殿。それは浴衣という着物っす。今、ユウ殿が頭にグルグル巻いているのは、腰帯っすよ。はだけないように腰にまくっすよ」
あらためて自分の姿を見て、その間抜けな姿に驚いた。下着は見えるは、肌は見えるわ。
裾はひらひらしてるわ。
あらわだ!
あわてて帯を腰に巻きつけた。
「はっはっは!」
エノキさんは大爆笑してくれてる。
ウケてるのか。
ならもあいいか。
でも。
でも、イロハ先生は、ぶすーっとしている。
やっべ。
ちょっと、見たくないものだったかな。
さっきまで、あんなに浮かれていたのにな。
気まずい。
まあいいや、今、放っておこ・・・
「ユウ!ちょっと!!面倒くさいとか思わないでちゃんと聞きなさいよ!!」
「え?ぼくの下着が見えたのが嫌で、イライラしているんじゃないの?」
「ちがうわよ!!」
「え、ちがうの?よかった」
「はぁ?何がよかったって!?私はねぇ、もう頭に来てるんだから!入浴マナーのイロハを叩き込んでやるわ!」
「うぅ。エノキさん。イロハ先生に何があったんですか?」
「うむ。それがすっね・・・・・・」
「私が話すわ!!」
イロハ先生、興奮しすぎだよ・・・。
・・・
・・・
・・・
女湯ではイロハモミジとエノキが星のくず湯を堪能していた。
湯船は星のかけらが煌めき、まるで天の川の中で湯浴みをしているようだった。
「イロハ殿。滅多に味わえん湯っすね」
エノキは、傷だらけの肩にお湯をすりこむようにしてかけた。
「本当ですね。私、このお宿がとても憧れで。まさか、泊まることができるだなんて・・・」
イロハモミジの白い肌は、星のくず湯に濡れて、いっそうの輝きを増した。
「わっはっはっ。わらわの好みにぴったりじゃ」
ジャボーン、ザザザーーー。
いきなり背後から大きな声。勢いよく湯船に飛び込んできたので、お湯が流れ出る。
「ぬるいぬるい。あつあつの熱風呂にするぞーーーー」
湯の温度がぐっと上がり、イロハモミジが驚いて目を見開いた。
「あっ、あつっ!」
「わっはっは!!いいぞ、いいぞ。もっともっとだ!!どうだアスナロ。いい湯加減であろう?」
「は、はいですーーー!!お師匠様、あつあつの最高にございますーーーーー!」
「ちょ、ちょっと!急に何するのよ」
イロハモミジが大声で叫んだ。
「はっはっは。風呂は熱くてなんぼじゃ」
「その子だって、もう熱くて顔が真っ赤じゃない!」
「アスナロ、どうじゃ?わらわの湯加減は」
「はいぃぃぃぃ、お師匠様ぁぁぁ!最高のお風呂、最高にございますぅぅぅぅーーーーー!」
「ちょっ、ちょっと!!」
エノキが驚いた表情で割って入った。
「もしかして、ヒ、ヒノキ殿っすか。こんなところで会うとはっす」
「おお、おお。エノキか。息災であったか」
「はい。ヒノキ殿こそ。それより、お風呂の温度、熱すぎじゃないっすか?」
「ぬるいことを申すな。この程度ではまだまだ足りぬぞ!なぁ、アスナロよ」
「はいぃぃぃぃぃ!お風呂も、修行ですぅぅぅぅ!お師匠様に少しでも近づきたいですぅぅぅぅ!」
わっはっは!ヒノキは豪快に笑いながら、さらに湯を熱くしようとする。
どうやら、この熱はヒノキから広がっているようだ。
「わっはっは!!このヒノキ風呂は最高じゃな!アスナロよ、もっと温度をあげるぞ」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
その様子に、イロハモミジは困惑した。
「エノキさん、私、先にあがりますね」
・・・
・・・
・・・
「っていうことがあったのよ!なんなの、あのヒノキって」
「ははは。ヒノキ殿は自分の古い友人っす。火の精霊魔法の使い手で。しかし、熱風呂に目がないのは昔からっす」
「もう、私、あの人苦手っ!」
なぁるほど。
それでぷんすかぷんすかしているのか、イロハ先生。
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