第25話 星のくず湯-まどろみの中で-
「うん、疲れを取るにはお風呂が一番だよね」
ぼくは頷いて、エノキさんの進む方についていこうとした。
「ユウ殿。何をやってるっすか!ユウ殿はこっちっす」
「もう、ユウったら。ユウは男湯でしょ?」
「え、でも・・・エノ––––––」
と言いかけたところでやめた。
そうかエノキは女性だったのか。
あの逞しい剣さばき。
今日一日のエノキを思い返すと、男顔負けの腕っぷしだったなぁ。
まさか、エノキさんがなぁ。
ぼくはてっきり––––––。
「星のくず湯は、先ほどご案内した星のかけらを拾い集めて星水に浮かべております。星のエネルギーが溶け出しておりまして、きっと、気に入っていただけるかと思います」
「あぁ、早く入りたいな!おっふろ、おっふろー」
「いってらっしゃいませ、お客様。それでは、私めは夕食の準備に戻らせていただきます。のちほど、お料理をお持ちいたしますね。失礼いたします」
ヨコグラノキは、光の粒となり、スーっと姿を消した。
「支配人自ら、料理の腕を振るうなんて・・・」
「ヨ・・・よよよヨコグラ殿の手料理をいただけるなんててててて」
ったく、イロハ先生もエノキさんも大袈裟だよ。
料理って言っても、どうせ食材はザックスなんだからさ。
「まぁ、まずはお風呂!いこう」
女湯の方向へ向かうイロハモミジとエノキを見送った。
ぼくは男湯の方へ向かう。
扉を開けると、そこには広々とした湯船が広がっていた。
湯船は、とてもいい香りがする木が使われている。
この樹木は、なんていうんだろうか。
今日は、スギちゃんに、イロハモミジ先生。
エノキさんに、アカガシのじっちゃん。
たくさんの樹木に出会ってきたんだなぁ。
あ、もしかして・・・っていうか、もしかしなくても、支配人のヨコグラ伯爵も精霊ってことなのかな、今度聞いてみよう。
湯面に星屑のような光が煌めき、まるで星空を湯に浮かべたかのような幻想的な光景が広がっている。
「すごい……これが星のくず湯……」
湯船に手を浸してみた。
温かく、肌に馴染む感触が心地よい。
服を脱ぎ、湯船に浸かると、全身に広がる温かさと星の力がじんわりと疲れを溶かしていくのを感じた。
「最高だ。今日ははじめてのことばかりだ」
肩まで浸かると、星の光が湯船の中で揺れて、まるで宇宙に漂っているかのような気分になった。
あまりにもの心地よさに、まどろみに襲われた。
・・・
・・・
・・・
「・・・じいちゃん。おじいちゃんってば!」
「ああ、なんじゃ、ユウか」
「おじいちゃんは、ちっちゃかったときどんな遊びをしていたの?」
「あそびか」
「うん、あそび」
「そうじゃな。まあ、虫や動物たちがワシたちの遊び相手をしとってくれたな」
「動物?虫?何それ」
「あぁ、ユウは動物も虫も見たことがないか。昔は、いっぱいいたんじゃがな。今では、管理対象にされてしまってな。どうも西京では、ハエの子一匹見当たらんなぁ」
「ハエ?なんだか、動きがハエそうだね、なんつって」
「はっはっは!言い得てるな。いいぞ、ユウ。想像力はたくましい方が人生は楽しい。いいか、たしかにハエは速いんじゃ。ワシらもその動きには到底追いつけんよ」
「えぇー!おじいちゃんが追いつけないなんて!」
「そうじゃなぁ、小さな羽をブンブン震わせて飛ぶんじゃが、もうその音がうるさいのなんのって。でもな、自然界ではみんながみんな大切な役割を果たしておるのじゃ」
「役割かぁ。ぼくの役割は何かな?」
「それはな、自分で見つけるもんじゃよ」
「自分で?」
「今、目の前のことをな、一生懸命取り組んでみるのじゃ。気分がのらなければ、やらなくてもいい。それも、役割じゃ。そしたらな、いつのまにか、お前だけの本当の『使命』に導かれていくのじゃ。それが、星の配剤じゃな」
「使命・・・?星・・・?配剤・・・?よくわからないよ、おじいちゃん」
「はっはっは、そのうちじゃよ。そのうち気がつくときがくるんじゃ」
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