第14話 杜人の目覚めと森をつなぐ光の道

「急に。ほんとに急にスギぽんの記憶が、ドババーーーって自分の中に入ってきたんだって」


「あのねぇ、スギぽんって。あなた、もっと敬意を払いなさいよ。仮にも、精霊なんだから。さっきなんて、おい、スギ!とか言って馴れ馴れしくするから、怒りを逆撫でたんですからね」


「いやいや、仲良くなるために、呼び捨てにしたり、ニックネームをつけたりするんですよ、イロハせんせっ」


「あなたねぇ、礼儀とか行儀とか、都市ではみんなそんな感じなわけ!?」


「まぁまぁ、イロハ殿。ユウ殿も悪気があったわけではないみたいっすから、ここは大目に見るっすよ。それに、精霊も人間も住む世界は違えど、交わりながら自然界の一部として役目を負っているっす。立場は対等っす」


「さすが、エノキさん!サムライ道ですね!」


「いやいや、自分は別に・・・」


エノキは、赤くなりながら、


「それはそうと、ユウ殿がスギ殿の記憶を体験したとのこと。やはり、これは、杜人の素質がなせる技っすね」


と言った。


「やっぱり、ぼくが杜人の末裔ってのは本当ってことか・・・」


イロハモミジが割って入って・・・


「杜人さまっていうのは、確かに精霊の声が聞こえる存在ひとと言われているわ。ユウのスギちゃんの声を聞いたあの現象っていうのは、やっぱり杜人の力が目覚めつつあるってことだと思うの。でもねぇ、まだまだこれからよ。杜人さまには、杜人さまにしかできない森の役割がまだまだあるわ」


ぼくたちは、スギとの対峙を終え、小高い丘を越え、再び森の奥へと足を進めていた。


「そういや、イロハ先生って、前々から先生っぽいなぁって思っていたけど、本当に先生だったってこと?モミジ先生って呼んでいたよね、」


「そうっすよ、ユウ殿。イロハ殿は、精霊魔法学校のマドンナ的な存在だったんすから」


「的な、は余計よ。的な、は。それに、もう昔の話よ」


「へぇー、精霊の世界には、学校があるんだなぁ」


「には?学校は、人間界からやってきた文化だと言われているっすよ。ユウ殿の世界にも学校はあるっすよね」


「うーん、学校というか・・・」


森の奥へと歩みを進めるに連れて、あたりはどんどん暗くなっていった。


「ここね」


ぼくたちは歩みを止めた。


「え、ここ?こんなに歩いてきたのに何もないじゃないか。ま・さ・か、今日はここで寝るとかないよな」


「よく見るっすよ、ユウ殿。足元っす」


「足元・・・ ?ん、木が!木が途中からなくなってる?」


「それを切り株と言うっす」


「切り株のちょうど真ん中に鍵穴があるでしょ?」


たしかに、切り株に穴が空いている。


「これが、大精霊アカガシ様のいらっしゃる“鎮守の森”の入り口。大精霊アカガシ様は、この森の全ての樹木とつながっている存在なのよ」


イロハモミジが静かに説明を始めた。


「そのため、時間や空間を超越した場所にいらっしゃるの。だから、私たちがたどり着くためには、『四季の回廊』を進まなければならないの」


「四季の回廊・・・。四季・・・?初めて聴く言葉だな」


エノキが頷いて答えた。


「なんと、ユウ殿。季節を知らないっすか。こう、暑かったり、寒かったりあるじゃないっすか」


「エノキさん。説明が雑です」


イロハモミジが指摘した。


「ガーーーーン」


エノキは、うなだれている。


「雑。自分は、雑・・・ざつ・・・ざっ・・・」


「ユウ。大切なことを伝えますよ。『四季の回廊』は、大精霊アカガシ様へと続く最短ルートです。季節を正しい順序でめぐることで、出口が開かれます。春や夏は暖かさを、秋や冬は涼しさをもたらします。もし、順序を誤った場合・・・季節の谷に落ちてしまうかもしれません。落ちたら最後。時空の歪みに挟まれて、二度と戻って来られなくなるかもしれないのです」


「むむ、季節の正しい順序かぁ。西京って、そういえば暑いとか寒いとかあんまりないなぁ。そりゃ体を動かしたり、料理で火の近くにいれば、暑くはなるけど––––––」


イロハモミジが少し微笑んで言った。


「心配いりません。樹木たちが、ユウを導いてくれます。大切なのは、彼らの声に耳を傾けることです。さあ、いきますよ」


イロハモミジは、羽織の袖口から、小さな鍵を取り出した。

そばにあった切り株の中心に鍵を挿し、回した。


カチャっ。


鍵の開く音がした。


すると・・・どこからともなく、その切り株は一筋の光で照らされた。


いや、違う。

よく見ると、

切り株から一筋の光が伸びているのか。


その光は、遥か森の奥へと続いている。


光の道・・・

この先に、大精霊のアカガシのじっちゃんがいるってわけか。

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