第13話 壊れた森、そして説得

一体どれほど気を失っていただろうか。


目が覚めると、そこはこの世とは思えないほどの惨劇が広がっていた。


樹術師や、人の姿はなく、


樹々たちは、折られ、倒れ。


地面には、穴が空いていた。


それは、何本もの木が根っこから引き抜かれた跡だった。


そこはもう、スギの知っている森ではなかった。


スギは、泣いた。


「どうして。どうして、こんなことに・・・みんなを、みんなを集めなきゃ」


スギは、倒れた木の枝から、実を集めた。


泣きながら、集めた。


とにかく集めた。


・・・

・・・

・・・


スギは、小高い丘の上に立っていた。


「また、もう一度。


また、もう一度、あの日々が・・・


ニンゲンなんて。人間なんて!!!嫌いだ嫌いだ嫌いだ」


そう言いながら、集めた実を地面に植え始めた・・・


「復讐だ。人間たちに、復讐の裁きを!!」


そして、スギは、素顔をマスクで隠した。


目には、憎悪の炎が静かに燃えていた。


・・・

・・・


スギの記憶が、ぼくの中に流れ込んできて、もう、心が追いついていかない。


ぼくの頬に、雫が流れ、地面へしたたり落ちた。






汗なのか・・・。



それとも・・・・・・。


スギの痛みを、なんとかしたい。


なんとか、守ってあげたい。


「スギさん、聞いてください!ぼくたちは君を助けたいんだ!」


ピクっ。


スギは、ムチを振り上げたまま止まった。


「助ける?笑わせないで!どうせまた、裏切るんでしょう?」


スギの目に涙が浮かんでいるように見えた。


「わたしはね、わたしはずっとこの森を守ってきたんだよ。人が用済みだって、伐り倒した子たちのことも、放置した子たちのこともみんな、わたしが守ってきたんだよ。人間は、私たちのことなんか忘れて、都市から誰一人として、わたしを・・・わたしたちを助けようと、帰ってきた人なんて、いやしなかったじゃない!」


イロハモミジが前に出て、スギに向かって力強い声で言った。


「スギちゃん!スギちゃんたちを助けたいと思っている者もいるの。スギちゃんの過去の話は、私も昔よく聞いたわ。本当に、人間たちがしたことは、私たちモミジの一族も許すことはできないって。でもね、私、思うの。人間の中にも、まだ希望を捨てていない者がいるんじゃないかって。私たちのことを考えてくれる存在ひとがいるんじゃないかって」


スギは一瞬戸惑ったように見えたが、すぐにその表情は再び硬くなった。


「先生・・・もみじ先生。わたしは・・・信じ・・・られない」


「信じてほしいんだ!」


ぼくは叫んだ。


「おじいちゃんが、杜人が、森を守っていたんだ。ぼくもその力を持っているなら、必ず森を救ってみせる!」


スギはその言葉に驚いたようだったが、まだ心を許す気配はなかった。


「杜人・・・?そんな存在・・・!今さら信じられないわ!!」


「たしかに、スギさん。君の話を聞いていたら、人間が君たちにしてきたことは、簡単に許されることじゃないのだと思う。だから、許してくれなんて、言わない。だけど、ぼくは、君の助けを求める声を聞いて、この森に入ってきたんだ。ぼくは、かつてこの森で何があったかなんて、聞いたこともなかった。でも、この森の存在が街では隠されていたこと。そして、あの君と最初に出会った青龍之橋が、なぜ禁足地だったのかが、少しずつ分かってきた。きっと、この森のことは、誰かにとっての不都合な真実なんだろう。いきなり、森の怒りをぶつけられて、正直、ぼくにも、何ができるかはわからない。わからないけれど、自分なりにこの森のことを知っていこうと思うんだ」


スギはしばらくの間、沈黙した後、やっと鞭を下ろした。


「・・・わたしには、もう信じるものがない。すがるものがないの。もうどうしたらいいか・・・。でも、もしあなたが杜人さんになって、本当に森を守るなら––––––」


彼女の声は弱々しかったが、そこにはわずかな希望が残っているように思えた。


「信じてくれ。約束する。ぼくは森の味方だ。君の味方だよ」


ぼくは静かに言った。


スギはしばらくの間、ぼくたちを見つめていたが、最後にため息をついて、


「わかったわ。でも、もし裏切ったら・・・そのときは容赦・・・しないから」


と言って、霧の中に消えていった。


ぼくは深く息をついた。


スギの怒りと悲しみを感じ、その重さに押しつぶされそうだった。


でも、ぼくは彼女に約束をした。


この森を守ると。


だから、必ずその約束を果たさなければならない。


「行きましょう、大精霊アカガシ様のもとへ」


と、イロハモミジが言った。

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