第109話

「気持ち、伝えなくてよかったんですか?」


「ちゃんと伝えたでしょ?別に元の世界にそこまで帰りたいわけでも無いってさ。」


「その事ではなく、恋の話ですよ?」


「……バレてたんだ?」


「はい。」




 なんだか深刻そうな顔をしていたルシファーが気になって、あまりお行儀の良いことではないと自覚はしつつも、ダロスとルシファーの後を追った私たちは、そこで彼女が私たちのために旅に出るつもりだって事を知った。


 事前に、ディオネから元の世界に帰る方法は無いと教えられていたんだけど、それで納得できる程ルシファーの頭は柔らかくなかったらしい。




 私は、前の世界では友達もいなかったし、家族ともあまり上手く行っていなかった。


 もちろん、いきなり消えた私を両親は多少心配しているだろうけれど、私がいない事自体に気がつくのに一体何日かかるのかわからない……と言うくらいには冷え込んでいた。


 だから、ルシファーが自分を犠牲にしてまで、私たちが元の世界に帰る方法を探す必要なんて無い。


 むしろ、今この世界での生活の方が充実しているくらいだし。




 それに、ルシファーが自分の恋を後回しにするのを見たくなかった。




 私のこの気持ちは、未だにどういう類のものなのかわかってない。


 恋なのかもしれないし、魔王相手に感じる宿命的な物なのかもしれない。


 単純に憧れだとしてもおかしくは無いわけで。


 だって、あんなに奇麗で、私を助けてくれた天使なんだから。




 だからって、私のこの気持ちを彼女が受け入れてくれる事は無いと思う。


 彼女は、ダロスが好きなんだ。


 まあ、私の事も嫌いというわけではないと思うけれど、好きって言うのとは絶対に違う。


 私と話している時と、ダロスと話している時で顔が全然違うから、嫌でもわかってしまう。


 今まで、こんな気持ちになんてなった事が無いから、どう対処したらいいのかわからない。


 相談できる相手もいない。


 唯一心を許せる友達は、明らかにこの手の相談に向いてないように思う。




「一応聞くけどさ、マルタが人生で一番好きなのってなに?」


「ダロス様に作って頂いたカップ焼きそばですかねぇ……?」


「そっか。うん、ありがとう。」


「いーえぇ。」




 やっぱりダメっぽい。


 時々鋭い事は言うけれど、基本ポヤポヤしてるし。


 だから、マルタに何を言われたとしても、この気持ちをルシファーに打ち明けるつもりなんて無い。




 ……単に、意気地がないだけなんだけどね。




「あーあ!自分で自分が嫌になるなー!」


「セリカって、時々ビックリするくらい臆病ですね?」


「ううううぅうううう!!!」




 訳の分からない唸り声を上げてしまう私を生暖かく眺めているマルタだったけど、直後いきなり深刻そうな表情になる。




「話は変わりますが、セリカは今後どうするつもりですか?」


「どうするって、何が?」


「ダロス様が領地を開拓して、新しく街を作ったとしてですよ?私は、回復魔法やスキルでどこででもお仕事できますけれど、セリカは……。」


「……いや!この前ダロスに新領地に作る基地の司令官やらないかって言われてたしさ!」


「あれって、まだ生きてる話なんですかねぇ?真聖ゼウス教皇国とは、かなり親密な友好国になるようですが、そこまで堅牢な前線基地って必要ですかねぇ……?」




 私にその手の知識はあまりないけれど、言われてみれば、確かにそうかもしれない。


 基地ができなかったら私は、ニート生活再開!?


 流石にそれは悲しすぎる!




(まあ普通に考えたら、友好国だろうと国境沿いには防衛拠点作るとは思いますけどねぇ……。)


「何か言った?」


「何も言ってませんよ?」




 何かマルタがボソッと言った気がしたけれど、聞き取れなかった。




「魔王は敵じゃなくなったし、魔物はダロスの作るロボットで即行片が付くし、勇者の私はどうしようこれから……。一応私も回復魔法なら使えるし、マルタの手伝いでもしようかな?一緒に病院でも開く?」


「それよりももっといい案がありますよ!」




 身をグイっと乗り出して、フンスフンスと鼻息荒くなるマルタ。


 どうやら、相当自信があるらしい。




「セリカもダロス様と結婚してルシファーさんを挟めばいいんですよ!」


「いやダメでしょ。」




 何を言ってくるのかと思ったら、思ったより大分頭が悪いことだった。




「冷静に考えて見てください!確かにセリカは、ルシファーさんに惹かれているかもしれませんが、別に女性が好きというわけでは無いですよね?」


「……まあ、多分違うと思う。」


「男性の中で、一番好きなのは誰ですか?」


「……一番って言うか、ダロスくらいとしか接してないよ?そりゃ、ダロスはいい奴だし、一緒にいると安心するし、嫌いじゃないけどさ……。」


「だったら問題ないじゃないですか!玉の輿ですよ!」




 問題ないとかそういう話なのかな?


 結婚って、もっと、男の人と女の人が好きあって、この人じゃないとダメって思ってやる奴なんじゃ……。




「昔は、恋愛結婚なんて殆ど無くて、お見合いとか許嫁なんてものが普通だったんですよ?好きな女の子が男の人と結婚するなら、自分もその男と結婚して、好きな女の子と家族になるって考えるのも、きっと未来では普通の結婚観です!」


「そんなことないんじゃないかなぁ!?」




 未来を先取りしすぎている聖女の言葉で、なんだか段々冷静になってきた私。


 ルシファーがダロスに告白しているのを見て、少し頭の中がグチャグチャになっていたけれど、やっと自分の中で答えを出せる気がする。




「……決めた。やっぱり、私はルシファーに告白はしない。この気持ちは、秘密のままでいいんだ。」


「本当にそれでいいんですか……?」


「うん……ただ、ダロスとの結婚に関しては……まだ、どうするか決められないって言うか……。」


「まぁまぁまぁ!では、求婚する際は一緒に行きましょうね!?」


「いや、結婚の申し込みくらい付き添いいなくてもできるって……。」


「いえ、私1人で行ったら抜け駆けするようで嫌だと思っているだけですので。」


「マルタもダロスと結婚するつもりなの!?」


「はい!最近胸への視線誘導がほぼ100%できるようになりましたから!」




 この世界でできた異世界の友達と、バカみたいな話をする。


 それだけでも、生きているのが楽しいと思える。


 だから、元の世界に帰れなんて言わないでほしい。


 魔王様にだけは、言われたくないんだ。




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