第17話 タクシー
新たな依頼の書類を手にした男は、オフィスを後にし、次の現場へ向かうためにタクシーを呼ぶことにした。街角で手を挙げると、すぐに一台のタクシーがスッと寄ってきた。男は少し疲れた表情でタクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げた。
「○○通りまでお願いします。」
運転手は一瞬、男の顔をチラリと見て、にやりと笑った。「お客さん、今日は特別なサービスをお付けしますよ。『プレミアムドライビングコース』ってのがあってね、少し回り道をして街の名所を巡るコースなんですけど…どうです?」
男は一瞬戸惑ったが、急いでいるわけでもなかったので、軽い気持ちで答えた。「まあ、それも面白いかもしれないですね。じゃあ、それでお願いします。」
運転手は「よっしゃ、任せてください!」と元気よくアクセルを踏み、タクシーを走らせた。しかし、走り出してすぐに、男は違和感を覚え始めた。タクシーはあまりにもゆっくりと、そして不自然なほど曲がりくねった道を選んで進んでいる。
「えっと…これ、どこに向かってるんですか?」男は不安そうに運転手に尋ねた。
運転手は、どこか得意げに答えた。「いや~、お客さん、これがプレミアムコースの醍醐味ですよ!普段じゃ通らないような道を走って、街の裏側を覗くっていう…ほら、あそこに見えるのがね、隠れた名所なんです。」
男は窓の外を見たが、そこには特に目立つものはなく、むしろただの住宅街が広がっているだけだった。「あの…どこが名所なんですか?」
「いやいや、見えます?あの家の壁の色!普通の家じゃあんな色使いませんよ。ほら、あれがこの街の風情なんです!」運転手は何かを語りたげに力説するが、男にはその魅力がまったく理解できなかった。
「まあ、でも急いでるんで、普通のルートでいいです…」男は少し困惑しながらも、プレミアムコースを辞退しようとした。
しかし、運転手はまったく聞く耳を持たず、「お客さん、人生は回り道が大事ですよ!急がば回れって言うでしょ?ここを右に曲がると、さらに面白いところが見えてくるんです。」と言いながら、再び意味不明なルートを取り始めた。
「いや、ほんとに普通の道で…」男はもう一度言おうとしたが、その時、タクシーが急にブレーキを踏んで止まった。
「おっと、今のはサービスの一環です。驚かせてしまってすみません。」運転手は後ろを振り返り、ニヤリと笑った。
「サービスって…?」男は呆れたように聞き返した。
「お客さん、タクシーに乗るときは、ただの移動手段じゃなくて、エンターテインメントとして楽しむべきなんですよ!」運転手はどこか自信満々に続けた。「このドライブ、忘れられない体験になること間違いなしです!」
男は内心、「もう二度とこのタクシーには乗らないだろう…」と固く心に決めたが、結局タクシーは無事に目的地に到着した。
運転手が「またのご利用、お待ちしてます!」と笑顔で言う中、男は軽く会釈をしてタクシーを降りた。「こんなタクシー、また乗るわけないだろう…」と心の中で呟きながらも、なぜか少しだけ面白い体験だったと感じている自分がいた。
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