第6話 新たな出会い

それから数ヶ月が経ち、男は日常生活に戻りつつあった。仕事にも徐々に集中できるようになり、友人たちとの交流も再開していた。あの日の葬儀のことは、心の中で大切な記憶として静かに残っていたが、もうそれにとらわれることはなかった。


ある日、男は仕事の帰り道、何気なく立ち寄ったカフェで一杯のコーヒーを注文していた。カフェは落ち着いた雰囲気で、窓からは夕陽が差し込み、暖かい色彩が店内を包んでいた。男は窓際の席に座り、コーヒーの香りを楽しみながら、ふと過去を振り返っていた。


「少しずつ前に進めているかな…」男は自分自身に問いかけながら、コーヒーカップに手を伸ばした。その時、ふと隣の席に座る人物が目に入った。


そこには、あの葬儀屋「やすらぎ」の店員がいた。彼は本を読みながら、同じようにコーヒーを楽しんでいる様子だった。男は驚きつつも、思わず声をかけた。


「もしかして…『やすらぎ』の店員さん?」


店員は顔を上げ、男の顔を見るとすぐに笑顔を浮かべた。「あっ、お久しぶりですね!こんなところでお会いするとは思いませんでした。」


男も笑顔で応えた。「本当に偶然だね。ここによく来るの?」


「ええ、時々ここで休憩しています。この場所は落ち着けるし、好きなんです。」


二人はそれをきっかけに会話を始めた。コーヒーを飲みながら、男は葬儀後の生活について話し、店員は日々の仕事や趣味について語った。気がつけば、夕陽は完全に沈み、店内は夜の静けさに包まれていた。


「そういえば、あの葬儀の時、本当に驚いたけど、今ではあれで良かったんだと思ってる。あの後、いろいろと考えさせられたよ。」男はそう言って、感謝の意を改めて伝えた。


店員は静かに頷きながら、言葉を選んで話し始めた。「私たちは、ただ葬儀を手配するだけではなく、残された方々の気持ちを少しでも和らげることができたらと思って仕事をしています。それができたのなら、私たちの役割は果たせたんだと思います。」


「本当に、そうだね。ありがとう。」男はその言葉に心から同意し、もう一度感謝の意を示した。


その後、二人は別れ際に名刺を交換した。男は店員が「佐々木」という名前だと知り、彼もまた男の名前を覚えてくれた。


「また、何かあったらいつでも相談してくださいね。お仕事でも、プライベートでも。」佐々木はそう言って微笑んだ。


「ありがとう、そうさせてもらうよ。今日は本当にいい時間だった。」男も微笑み返し、軽く手を振ってカフェを後にした。


外に出ると、夜の空気が心地よく肌を撫でた。男はふと立ち止まり、夜空を見上げた。あの時、風船が舞い上がった空を思い出しながら、静かに一歩ずつ歩き出した。


「また、新しい出会いが始まるんだな…」


男はそうつぶやきながら、これからの人生にもまた、新しい何かが待っているのだと感じた。佐々木との偶然の再会は、彼にとって新たなスタートを示唆するものだった。


男はその夜、家に帰ってからも佐々木との会話を思い返していた。あの不思議な葬儀から始まった出来事が、彼の心に少しずつ変化をもたらしていた。そして今、彼はまた新たな一歩を踏み出そうとしている。


「ありがとう。そして、これからもよろしく。」


心の中でそうつぶやきながら、男はゆっくりと目を閉じ、そのまま静かに眠りについた。夜が明ければ、また新しい一日が始まる。それがどんな日になるのか、男は少しだけ楽しみにしていた。

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