春のふたりは百合の中
瑠璃唐草
プロローグ
出会ったのは学校の通学路にある、家から5分程度で着くコンビニだった。いつもは少し遠いスーパーのほうが安いのでそちらで買い物をするが、妹がグラタン用の牛乳を飲み干してしまったのが今朝の話。多少高くなるが、まだ衣替えをしたばかりで蒸し暑くなってきた季節に、反対側にあるスーパーに足を運ぶのも面倒くさいので、数十円を無駄にするかわりに楽を買った。
部活に入る生徒が多い中で、私は両親の共働きという事情で所属していない。まだ小学3年生の妹を一人にするわけにはいかないからである。家事全般もついでに押し付けられた形にはなっているが、好きなのであまり気にしていない。妹もかわいいし。
さて、冷房の効いたコンビニに入りパックの飲み物売り場に行ったわけだが、レジに向かう途中のアイス売り場に彼女はいた。苗字は覚えていないが、アルバイトでモデルをしているという一つ上の先輩。下の名前は確か、
「遥香先輩」
透き通った茶色い髪をなびかせ彼女は振り返った。
(しまった、声に出てた)
悪い癖である。振り返った先輩と目が合う。先輩が私を見下ろしている。ふと、視線が手に持っていた牛乳に移る。
「……飲みます?」
まだ買ってもいない牛乳を飲ませるわけにもいかないが、なんとなく聞いてしまった。
「財布を忘れちゃったんだよね、アイス食べたいの」
状況は理解できた。だから買わずにケースの中を覗いていたのか。
(まあ、たまにはいいか)
「私も食べたいので、半分にできるやつでいいですか?」
ほんの気まぐれだった。家事をしている分、お小遣いも多少は貰っているのでアイスの一つや二つなんの問題もないのだが、二つ買えばいいものを、貧乏性が出てしまった。
ただ、彼女は驚いたような顔をして首を傾げた。動作の一つ一つが映える人だなと思った。
「いいの?」
「いいですよ。この半分に割るやつでいいですか?」
「うん」
牛乳とアイス一つを持ちレジへ向かう。もったいないのでレジ袋はいらない。現金で会計を済ませた後、外に出てまだ温い暑さを感じながら、アイスを開けて半分に割る。
「どうぞ」
「ありがとう」
日がまだまだ沈みそうもない時間帯、アイスを片手に持って食べる彼女は雑誌の表紙にでもなってそうなくらい綺麗だった。
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