2話 君と出会った

あれから中学生活が無事に終わり公立の高校へと進学した。


学校は徒歩でも通える距離なのもあって大分使い慣れてしまった松葉杖を片手に毎日登校する。


リハビリの成果もあり少し歩く程度の距離であれば松葉杖がなくとも大丈夫にもなった。それでも、未だに激しい運動をすることはできない僕は体育の授業だけはいつも見学である。


そうして入学して2ヶ月、新しい空間ではそれなりの新しい友達も何人かできた。


そのほとんどは、松葉杖も使っているのを理由に話しかけてきた奴らである。


それは小学生の頃足を骨折したクラスのお調子者が松葉杖で登校してきた日に、皆して群がっていた時のことを思い出させる。

そんな高校生活における試験を除いた最初のイベントは体育祭であった。


「体育祭の実行委員会を決めます」

そう発言したのは、このクラスをまとめる委員長である加納恵かのう めぐみ

自ら学級委員に立候補した彼女はとても真面目でそれは容姿にも現れている。


一切の乱れもしわもない制服姿に三つ編みとなった黒髪、オマケにメガネまでかけている容姿は正に絵に書いたような真面目委員長の姿そのものである。


アニメやマンガではモテないタイプかもしれないが少なくともかなりの美人であり、

クラスの男子も何人かは好意を抱いている。


──そうして体育祭の実行委員会、そして各々がでる種目が淡々と決まっていくが僕にとってそれは関係のないことで。

唯一出来ることは応援合戦での声出し程度。

1年前であれば色々な種目に積極的に手を挙げていたのだろうか。


それから数日が経ち、、、


「はぁ〜」

「ん?どうしたんだよ優太ゆうた

「練習辛いんだよぉ……僕、体力ないのに長距離走の選手だよ?」

「まぁ優太が寝ぼけて手を挙げたのが悪いけどね」


お昼休みに友人と会話を交わす。

このため息をついてる細身の身長160でマッシュヘアーをしている安藤優太あんどう ゆうたと、その真逆で筋肉マッチョで身長175のウルフヘアーをしている八野大樹やの たいきの2人は特に仲の良い僕の友達だ。


「そんなに体力ないなら辞退すればよかったじゃえか」

「あ……いやぁそれはちょっと」

「察しなよ。加納さんだよ、加納さん」

「ん?加納がどうかしたのか?おーいか───」

「ちょっとちょっと!」

「……もご なんだよ優太」

「今のは大樹が悪い。あのね」(ごにょごにょ)

「え!?マジ?おま……え!?」

「なんで言っちゃうのかなぁ……」

「ごめんごめん。だってこうしないと大樹が先になんかやらかすだろ?」

「優太おまえ、アイツのどこに惚れたんだよ!てかなんで涼はそれ知ってんの?」

「声大きいよバカ!それは僕が相談したからで」

「なんで俺には言ってくれねぇんだ」

「それは大樹だからだろ」

「はぁ?わけわかんねぇ」


ははは……この2人といると自分の悩みも馬鹿らしくなって気が楽になるんだよな……


「……つまり、加納にいい所見せたいってことか?」

「そうなんだよ、長距離走は他の人もやりたがってないみたいだし。ここで僕が活躍できたらって思ってね」

「んなら涼なんかアドバイスしてやればいいじゃねぇか」

「え、まぁ体力作りするのにオススメの動画紹介するくらいならできるけど」

「ほんと!?涼、感謝感謝だよ!」

「俺もこいつからアドバイスされたお陰で筋肉が前より輝いてるからな!」

「いや、僕はやり方を教えただけで凄いのは大樹自身だよ」

「知識があるのは凄いことだよ!涼もなんかスポーツやってたの?」

「……水泳を少しだけね」

「そうなんだね!」

「あ、おすすめの動画送っといたから後で見といて」

「ありがとね涼」

「俺のプロテインも1パックやるぞ?」

「それは気持ちだけ受け取っておくよ」

「あはは……」



「今日で立花さんのリハビリも終わりでいいでしょう。よくここまで頑張りましたね。ただし定期的な健診が終わるわけではないので、激しい運動は控えるようにしてくださいね」

「はい、先生ありがとうございます」


去年から度々通院して行っていたリハビリも今日で終わりを告げた。

そして松葉杖がなくとも余程の距離でなければ問題がなくなった。運動に関しては相変わらずなのだが……


そういえばスマホにLINEが来ていた。

確認すると母さんからで、買い物から帰ってきたら駐車場が空いていなかったようでここから少し離れた場所に停めたらしい。


そうして久しぶりの松葉杖無しのそれなりの距離を有した移動をする。

こうして、ゆっくりと歩いていると普段は見向きもしないものに心を惹かれるものだ。

用水路に流れる水だったり吹き心地のいい風。もう1、2ヶ月早ければ桜だって見れたかもしれない。


そんなことを考えながら歩いていると小さな喫茶店を通りかかった辺りで歌声のようなものが微かに聞こえた。


それは、何処かで聴いた記憶のある懐かしい曲。

自分の記憶では男性が歌っていたが、

中からは聞こえてくるのは女性の柔らかい声で─── その声に誘われたかのように自然と僕は喫茶店へ入った。


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