27.ディアミド
「おらおらどうした⁉ 手も足も出ないのか⁉ ハッ! 俺が最強だからそれも仕方ないか‼」
結界魔法を張ることで何とか受け流せているが、それもいつまでもつか分からない。攻撃を受けるごとに、兄さんが一歩、また一歩と後ろへ下がる。魔法石の中にいるお陰で結界を張り続けることは苦でもないが、生身の兄さんはそうもいかない。
(このままじゃ兄さんが……! ええっと、何か傷つけずに攻撃できる方法……あ!)
〝
ズドンッ! ズドドッ‼
空中のディアミドを取り囲むように、突如として土壁が生える。これであちらの攻撃さえ止めば、その間に水の魔法をかけることで身動きが取れなく——。
「甘いッ!」
〝ああ! そんな!〟
ディアミドは大翼を振り回し、難なく土壁を崩した。
「甘い! 甘いッ! 最強である俺に攻撃が通じると思ったら大間違いだぞ!」
哄笑し、慢心し、ディアミドは先程よりも勢いを増して攻撃してくる。
「クッソ! リーアム! 絶対にその剣を離すんじゃねぇぞ! 奴の一番の狙いはキーヴァだ! もしくはオレ様! お前が剣を離したら、絶対奴はその剣を奪いに来る! 魔法石を砕かれたら、キーヴァの命も無ぇぞ!」
〝うえええええ⁉ 私の命そんなに危ないのお⁉〟
「んなこと言われなくても、離すもんかよ!」
兄さんが剣を握る力を強くする。その間にも風の刃は休むことなく襲ってくる。
「きゃっ⁉」
「ソフィー‼」
疲れが出てきたのだろう。風の刃がソフィーの結界魔法を打ち破った。まともに攻撃を浴びたソフィーが血を噴き出し倒れる。
「や、やっぱり……あなた、強すぎ……」
「そりゃあお前よりずっと永く生きてる神だからなあ! 原初の神舐めんな……ぐっ!」
トゥタカルタも軽口を叩いてはいるが、押され気味のようだ。顔に疲労が見えている。倒れたソフィーの分まで結界魔法を張っているから、疲労度はかなりのものだろう。
(……あれ?)
もしかして……。
「ああもう! これならいっそ、人間の身体に入るよりも魔法石に入ったままの方がよかったか?」
(私なら……〝魔法石に入っている私〟なら、あいつを倒せる……?)
ある可能性を思いついた私は、すぐさまトゥタカルタに聞いた。
〝トゥタカルタさん! あの人はどうやってあなたを魔法石に閉じ込めたんですか⁉〟
「魔法石に閉じ込めた方法? 身体から魂を抜くわけだから、人間にとって禁忌に分類される魔法だろ!」
〝どんな呪文を唱えていたかとか、覚えてませんか⁉〟
「呪文? ……ああ、読めたぜ。お前の考え!」
トゥタカルタが唇の端を吊り上げる。きっと私も今、そんな表情をしている。
「自慢気に説明してくれたからなあ! よぉく覚えてるぜ! 禁書の中から見つけたとかいう禁断の魔法!」
すっ、とトゥタカルタが杖の魔法石に手を添える。すると私の意識に、その呪文が送り込まれた。
〝っ‼〟
(何、これ……⁉)
トゥタカルタがその呪文を受けた時の光景がそのまま伝わってきた。地面に描かれた魔法陣。その上に横たえられたトゥタカルタ。傍らに立ち長々と呪文を唱える青年……これが本来のディアミドの姿だろう。危険な魔法を使っているせいか、白目を剥き、鼻血を垂らしている。それでも必死の形相で呪文を唱え……それぞれの魂の居所が変わった。
(嘘でしょ私今からこんなことしなきゃいけないの⁉)
予想を遥かに超える禁忌っぷりに逃げ出したい気分になった。だが、ここで諦めてはいけない。私の命が掛かっている。
いや、私だけじゃない。兄さんや、ソフィーや、トゥタカルタ……そして、ディアミドの命も、だ。
「キーヴァ! 今ので伝わったな? あとさっきオレ様があいつを捕らえようとするのに使った魔法も覚えているか? あれもお前がやれば、あいつを捕まえられるはずだ! 安心しろ。援護はする」
〝わ、分かりました! 兄さん! 私が合図したら、私を離して!〟
「はあ⁉ んなことして大丈夫か⁉」
〝大丈夫……か分かんないけど〟
「そうでもしないと奴はこのまま攻撃を続けて、先にオレ様達が全滅するぞ!」
「……分かった。キーヴァ、いつでもいいぞ!」
〝うん!〟
攻撃は尚も続いている。私が結界魔法を使うのを止めれば兄さんに攻撃が当たってしまうが……トゥタカルタがどうにかしてくれると信じよう。
(大丈夫。私ならやれる。私ならやれる!)
覚悟を決め、兄さんに合図を出す。
〝今‼〟
兄さんが攻撃を受け流すと同時に剣から手を離す。振りかぶった勢いで
「もらったあ‼」
最後の一撃とばかりに強烈な一発を兄さん達に放つ。そして間髪入れずに地上へと急降下。大きな鉤爪で
「ククッ……。ようやく君を手に入れることができたよ、キーヴァ」
剣を手に持ち替え、舌なめずりしながらディアミドが言った。手に入れる……?
「実は今まで誰にも言ったことがなかったんだがな、君の噂を聞いた時から、俺はずっと君を手に入れたいと思っていたんだ」
〝う、噂……?〟
「ああ。勇者証を受け取る認定試験で、魔物だけ攻撃すればいいのに、君は試験官までにも攻撃を食らわせたそうじゃないか。そのせいで試験官を怒らせた君は勇者証を貰えなかったとか。俺はそういう型破りな奴を仲間にしたいとずっと思っていたんだ!」
〝そ、そうですか……。でもその噂、ちょっと間違いが……〟
「それに! その勇者証を貰えなかったのは可愛い女の子だと知ったらますます欲しくなるだろう! やっぱ一緒に旅をするなら、筋肉自慢の野郎よりも可愛い女の子の方がいいもんな! 君だってリーアムみたいなものぐさ野郎よりも、俺みたいに強くてカッコイイ、勇者の中の勇者! って人と一緒の方が嬉しいだろ! すぐに君の身体を取り戻してあげるから、俺と共に、二人きりで旅をしようじゃないか!」
〝……〟
何でそんな幻想を必死にまくし立てているんだろう。駄目だ。色々と駄目だ。こっちの話を聞く気がまるで無いし、一方的に自分の考えを押し付けてくる。兄さんもそりゃあ駄目な部分はあるけど、でも……それでも。
(大好きな兄さんを、悪く言うのは許さない……!)
先程トゥタカルタが彼を捕まえた際に使用した魔法の雰囲気を思い出す。初めて見る魔法だった。それでも発動した時の空気感さえ分かっていれば、駄目元ではあっても再現しようと思えばできる!
(冷たい空気……死者に巻く布……地面から……地獄……?)
あの魔法には〝死〟の空気が漂っていた。殺す気であんな魔法を使ったのか? いや。今はそんな疑問はいい。とにかく、再現させる——ッ!
一人で自慢話だか何かをしているディアミドを無視して、私は魔力を集中させた。
〝
「っ⁉」
地面から薄汚れた布が伸びる。トゥタカルタが使った時よりも本数が少ないが、それでもディアミドを止めんと足や翼に絡みつく。
「何がしたいんだ、キーヴァ。これはさっきあいつが使っても無駄だっただろう」
〝だから私が使っても無駄。そう言いたいんですか? でも、二人で使ったらどうでしょう〟
「何? ……ッ⁉」
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