30年の時限装置

伏見同然

30年の時限装置

妻が刺されて、男が取り押さえられるまで、私ができたことはほとんど何もなかった。

男を取り押さえたのは、顔だけ知っているどこかのパパで、妻を介抱して救急車を呼んだのは、よく知っている妻のママ友だった。

小学校5年になる息子は、自らの判断で安全な場所に身を隠し、きっと頼りない姿の私を見ていただろう。


犯人の男が小学校のときの同級生であることも自分では気づけず、警察からの話で知った。

動機は、小学生のとき私から受けたいじめへの復習で、妻を刺した後に私の息子も襲う計画だったという。

彼は、全ての原因は私にあり、私を苦しめることばかり考えてきたのだと裁判で語った。


親にも友達にも守られた状態で、当時の私は無邪気に彼の中に仕掛けていたのかもしれない。

望むものを手に入れ、守るべきものができたそのときに作動する時限装置を。


裁判所を出て、息子は言った。

「どうして、お母さんは殺されたんだろう」

息子の中に時限装置がセットされた音が聞こえた気がした。

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30年の時限装置 伏見同然 @fushimidozen

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