第1話

 よく晴れたある日、私は嬉しくて飛び跳ねました。春が来たとがわかったからです。

 この世界では、春は一気にやってきます。昨日まで一面に雪が積もっていても、次の日にはほとんどの雪が溶け、花々が咲き誇り、動物は活動を始めるのです。

 それが、春がやってきた証。

 私は四つの季節の中で、春が一番好きでした。大好きでした。

 鳥の心地よい鳴き声が聞こえてきます。鳥も、春が来たことを喜んでいるようです。

 私の名前はハル。名前の由来は、春のよく晴れた暖かい日に生まれたから、だそうです。ですから、春は私にとってぴったりの季節でした。


 私はすううと大きく息を吸い込みました。暖かい空気が肺の中に入ってきます。

 何もかもが優しい春には、悲しいことなど何もないと信じていました。

 鮮やかな緑に染められた大地を踏みしめ、お気に入りの桃色のワンピースの裾を持ち上げ、私は走り出します。少し残る雪をよけながら、ある場所に向かいます。

 それは、誰にも秘密の花畑。私だけが知っています。毎年、そこは誰もお世話をしないのに、花が見事に咲き乱れているのです。

 そこは春の神様が住む場所だと、昔、誰かに教えてもらいました。

 私はその場所で、紅茶を飲むのが大好きでした。そうしていると、昔の懐かしい思い出が思い出せそうな気がするのです。といっても、私はまだ十五歳。思い出なんてそんなにないのですが。

 それでも、なんだか懐かしい香りがするのです。

 私は今日も、紅茶の入ったポットとティーカップ、そして少しのクッキーが入ったバスケットを持って、その花畑に向かっていました。


 花畑に着くと、去年の春と同じように、鮮やかに絢爛に、花々は咲き乱れていました。

 赤色、白色、黄色、橙色、桃色、空色、藍色、紫色、色とりどりの花々。そして黄緑や深緑の葉っぱたち。

 私はハッと息を呑みました。その中に埋もれるように、一人の少年が立っていたのです。

 少年は私と目が合うと、にっこりと笑いました。


「こんにちは、ハル」


 少年は突然、私の名前を呼びました。はっきりと。

 ですが、私は彼が誰だかわかりませんでした。


「……誰?」


 私は小さな声で尋ねました。まさか、先客がいるとは思わなかったのです。

 ここは、私の大切な、秘密の場所なのに。


「ふふっ。今年も君に会えて嬉しいよ、ハル。どうか今年も、幸せに過ごしてね」


 しかし彼はそれだけ言うと、スッと消えるようにどこかへ行ってしまいました。

 私は首を傾げましたが、そんなことはすぐに忘れることにして、バスケットの中身を広げ始めました。

 早速、紅茶をティーカップに注ぎます。

 家から持ってきた紅茶は、既に少し冷めてしまったようです。しかし口をつけると、ふわっと鼻腔に紅茶の香りが広がりました。文句なしの美味しさです。

 そしてクッキーに手を伸ばし、私はしばらく、花々を眺めながらのティータイムを楽しむことにしました。

 鳥の声、美しく咲く花々、時々通り過ぎるリスやウサギ。ここでは時間がとてもゆっくり、穏やかに過ぎていきました。

 私はいつしか、眠ってしまっていました。暖かな気持ちの良い陽気が、そうさせたのです。

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