もしもあの世とこの世でSNSが繋がるなら
雪水
もしもこの願いが叶うなら
18歳で死んだ。
自殺。
俺は何もしてやれなかった。
幼馴染を助けられなかった。
ただ限界に喘いでいる春香を見て見ぬふりすることしか出来なかった。
俺はどこか楽観視していたんだ。
どうせこいつは死なない。
限界になる前に俺に相談してくるはずだってタカを括っていたんだ。
結果としてそれは大間違いだった。
あいつは、春香は誰にも相談することが出来ないまま自ら人生を降りた。
俺のせいだ。
何もかも俺のせいだ、俺が話しかけてやれば、話を聞いてやればまた春香は今も笑ってたのかも知れない。
なんとかなる、なんて思ってた頃の俺が憎くて仕方がない。
どうして俺はいつもそうなんだよ、なんでどうにかなると思っちゃうんだよ。
それでどうにかなったことあんのかよ。
無いだろ。
何も。
何も残っちゃいないんだよ。
春香が死んだ。
春香とは保育園からずっと一緒。
ずっと仲良くて、俺たちが付き合ってるってからかわれたときでさえ春香は笑ってた。
俺は笑えなかった。
本当に春香に惹かれていたから。
春香が笑ってそんなこと無いよって言う度に俺の心の奥深くがぎゅって締め付けられる感覚がした。
俺となんか付き合ってるわけ無いって言われてる感じがして悲しかった。
でもそんなことなかった。
春香の友達から聞いた話だから本当かどうかはわからない。
春香が自殺する、いや、自殺#した__・__#であろう時間の直前に一件のラインが送られてきていたらしい。
「私、もう疲れちゃった。来る日も来る日も勉強漬けの毎日でさ、色恋にかまけるような余裕なんてなかった。実は結城のこと好きだった。だけど私達が二人で居てからかわれたとき、結城は一回も笑ってなかった。喜んでもなかった。私のこと嫌いなのかな。でも私は大好きだった。結城が同じ気持ちで居てくれたらって何回も思った。願えば願うほど苦しくて、逃げることにした。私は誰にも見つからないように逃げるよ。もし見つかったらその時はいっぱい怒ってね、私のことを。おやすみ。」
俺はただ春香とよく遊んだ公園のベンチの上で絶望に打ちひしがれることしか出来なかった。
春香は俺が思っていた以上につらい境遇だったのだと、俺の態度のせいで春香が苦しんでいたのだと。
俺はただ春香が本当に好きでからかわれたときに何も反応が出来なかっただけなのに。
ずっと恋い焦がれていた相手がまさか自分の態度のせいで死んだなんて思いもしなかった。
「ッ...」
何か声を出さないと壊れてしまいそうで、でも半分ほど開いた口からは声が出ず、かわりに苦い胃液が漏れ出た。
「ぐっ...げぇっ...」
不快感のある水音を立てながら広がっていく胃液にはところどころ赤いものが混じっていた。
「おぇっ、げほっ......はぁ。」
荒い呼吸をしばらく挟み、ようやく口から言葉が出てきた。
「俺が春香を殺したも同然じゃn...げぽっ」
言葉を最期まで紡ぎ切るほどの精神力は残っていなかったようだ。
もう何も出なさそうなくらい胃が縮こまっているのがわかる。
本当に何も出なくなって嗚咽くだけになってきた。
嗚咽きすら出なくなった頃ようやく俺は家に帰る決心がついた。
家に帰りうがいをしてから親に晩御飯がいらない旨を伝え部屋に引きこもった。
「春香...」
もう居ない君の名前を呼ぶ。
「まだいっぱい話したいことあったのに。」
「なんで先に逝ったんだよ。」
「しかも俺を置いて、一人っきりでさ。」
「なぁ春香、俺もお前のこと好きだったんだぜ?」
「もう二度と言葉を交わすことは無いだろうけど。」
そこまで言うと体が感情を思い出したようにようやく涙を流し始めた。
「どんな方法でもいいからさ、俺とまた喋ってくれよ。春香...」
一通り涙が収まったタイミングで、
ピロン
不意にスマホの通知がなった。
なんだよこんなタイミングに、なんて考えていると通知欄に表示されているのは知らないアイコン。
緑の背景に白い吹き出しのあのアイコンでも青い背景に白い鳥のアイコンでも虹色の背景に白いカメラマークが付いたあのアイコンでも無い、白地に黒で三角形が2つ重なったようなアイコンのアプリからだった。
見慣れないアプリながらも、通知が来るということはメッセージアプリだろうと思いそのアプリを開いた。
マイページにはひらがなで 「ゆうき」 と書かれており、右下のフレンドというアイコンの右上に赤い丸が付いていた。
経験上こういう赤い丸がついている時はフレンド申請が届いている、と思ったのでそのアイコンをタップして開く。
そこにはフレンド申請をしたであろう人のプロフィールが載っていた。
そこにはひらがな3文字 「はるか」 とあった。
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