アルバートの王城では、リファールのご両親、つまりアルバート王国の国王陛下と王妃様なわけなのだが、お二人が玉座の間でサラ達を迎えてくださった。

 一国の王が、ここまで気さくに他国の庶民たちをもてなしてくださるとは……。


「そなたらのことは、リファールから聞き及んでおる。五日間の滞在中、ゆるりと過ごすがよいぞ」

 王太子に似た爽やかで凛々しい王様だった。

 その隣の王妃様にしても深紅の髪色の美女だった。


 絵に描いたような幸せな家族。

 絵に描いたような幸せな許嫁との関係。

 リファール王子の周囲は、全てが完璧に整っているように見えた。


「美味しい……!」

 サラは晩餐の席で、普段は滅多にお目にかかれない豪華な食事に舌鼓したつづみしていた。

 晩餐は、広いホールに、サラ達五人の客人と、リファールとその許嫁シルヴィア、七人水入らずの気さくな席が設けられた。


「お前なあ、もうちょっと淑女らしく出来ないのかよ……」

 エドガーは呆れ顔だ。


「や、やだ……っ、わたし、そんなにはしたない……っ?」

 大好きなエドガーにそんな風に言われて涙目になるサラだった。


「クロエ・カイルを見倣みならえ。一口は小さく、ゆっくりと優雅に咀嚼するんだ」

 たしかに、帝都の名家で育ったクロエ・カイル様は、食事のしかたもいちいちたおやかで美しい。

 サラには真似できない仕草だ。

 サラはますますしゅんとなった。


「お好きなようにしてくださって構わないのよ。今宵は無礼講ぶれいこう。わたくしも、みなさんの恋バナ、ぜひお聞きしたいわ……!」


 リファールの許嫁、シルヴィア姫は、これまで見たこともないぐらい完璧な、絶世の美姫なのに、気取ったところがなく、すぐに皆に打ち解けていた。

 外見と同じぐらい、中身も素晴らしい人のようだ。

 リファールが惚れ込むのも無理はない。


「チネからいろいろお聞きしてるのよ。サラちゃんとエドガーさんはいい感じだって。それから、クロエちゃんとユーシスくんもいい感じだって」

 サラは真っ赤になり、クロエは苦笑している。

 いったい、チネ・リリアナはどんな報告をご主人様の許嫁にしているのだろう。


「私とリファもいい感じよ、ね……っ!」


「まあな」

 爽やかな王太子様は、幸せそのものの顔をしていた。

 サラは羨ましくて堪らなかった。

 サラにはお二人の姿が、まさに憧れのお伽噺の世界の住人みたいに見えた。

 愛でたしめでたしで終わるお伽噺のお姫様と、隣国の王子様だ。

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