3
クロエは立ち上がって、慌てて周りを見回した。
夢でも見ていたようだ。神様の遣いは煙のように消えてしまった。
「アルファトス……」
クロエは確かめるようにもう一度呟いた。
どうにも消化できない気持ちを持て余して、途方に暮れたように涙を拭った。
まだ胸がドキドキしている。
「クロエ……!こんなとこに居た……っ」
クロエはハッとした。
サラがブツブツ言いながら近付いてくる。
「もう、探したんだから……!心配するじゃない。一人で泣いてるのかと思ったんだからこっちは……って、」
サラはクロエの目の前に立って、クロエの全身をためつすがめつして言う。
「どうしたの?クロエのそんな、魂が抜けたみたいな、ボーッとしたような顔、初めて見るんだけど……」
「な、何でもないのよ……っ。寮に、帰るわよ!」
クロエは首を数回横に振るわせて、煩悩を捨て去ろうと、足早に歩き始めた。
そんなクロエの姿にますます目を丸くするサラだった。
「ち、ちょっと、待ちなさいよー!なんか、物凄く変だよ、クロエ……っ!」
サラは慌てて追い掛けてくる。
サラにだってこんなこと言えない。
術の勉強をするために入った学校で、こともあろうに、ほとんど初対面の相手にファーストキスを奪われて、アワアワしてるなんて……!
な、なんて破廉恥な……っ!
何を考えてるの、私ったら。
こんな、煩悩、捨て去らなくては……!絶対に……っ!
心の中でそんな風にブツブツ言いながら、アルファトスにもう一度会うためにはどうしたらいいのだろう、などと、完全に恋する乙女になって、煩悩に支配されそうになっているクロエ・カイルだった。
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