サブストーリー
宵待の後悔と葛藤と
俺はあの手紙を佐野から貰った日、家に帰って我慢できずに開いてしまった。
遺書だった。
俺ははじめたちの悪いいたずらだと思った。
思うようにした。
「またな」って言ったときのあの二人のなんとも言えない表情を思い出してやや不安になる。
信じたわけじゃないけど、疑ってるわけじゃないけど。
気がつけば佐野の家に向かって走り出していた。
「佐野、佐野!嘘だよな、家にいるよな?きっと出てきて『何しに来たんだよ』ってまたあしらってくれるよな?」
インターホンを押す。
虚しく電子音が鳴り響き、その後にはなんの音も続かなかった。
せいぜい後ろを通る車の音しかしない。
俺の頭の中は恐怖と無力感でいっぱいになっていた。
「はぁ、はぁ...ふっ、あはは!あははははははははっ!!」
佐野がいなくなってしまうかも知れないという絶望感から俺はおかしくなったんだろう。
笑いが止まらない。
数度咳を挟んでようやく落ち着いた頃には涙が頬を伝っていた。
「佐野...」
無意識のうちに俺の足は動き始めていた。
探そう。探し出して助けよう。
脆く崩れかけの意志だけを抱えあてもなく走り出す。
走って走って躓いて転びそうになって心が折れそうになって本当に佐野はこの世に存在したかどうかすら怪しくなってきて、無駄だと思い始めきっと寝て起きたら何事も変わってないはずだと思った。
何事も変わってない「と良いな」と思った。
家に帰り晩飯を食べ、ラインを開く。
そこには「とうま」という名前のトーク履歴がある。
見なかったフリをした。
俺はもう何も考えずに布団に潜り込み眠った。
次の日、学校に行くと教室で待機しておくように言われた。
そして学級会議が始まった。
今日の未明に佐野と神薙、両者の死体が見つかったこと、神薙から学校宛に遺書が届いていること、昨夜から佐野と神薙が家に帰っていなかったこと。
すべてが俺が思った最悪のシナリオ通りに進んでいた。
佐野の両親が入ってきた。神薙の両親も一緒だ。
いきなり銀色の機械を取り出したかと思えば音声が流れ始める。
佐野と神薙、そして聞き覚えのある先生の声。
先生の声が佐野たちを罵倒する。
一通り流れ終わった後、教室に渦巻くのは気が遠くなるような重くまとわりつく不信感と絶望感、悲壮感、脱力感など、決してポジティブとは言えないものばかりだった。
その日、一日耐えきれる気がしなかったので俺は早退届をもらい帰ることにした。
道すがら俺は佐野から貰った遺書を思い出し一人で声を上げて泣いた。
路地裏に入り誰も見ていないであろうことを確認してから号泣した。
無理もない、だって...
「俺の好きな人」との突然の別れが来たんだから。
佐野と神薙の二人のカップルは見ていて微笑ましかった。
神薙になら佐野を取られてもいいとすら思った。
幸せそうな佐野を見ているだけで満足できた。
でももう佐野はここには居ない。
神薙と一緒に逃げることを選んだから。
ずっと好きだったけど神薙との関係を素直に応援できたのは単純に神薙が良いやつだったからだ。
神薙になにか言われて佐野が死ぬならいざしらず、学校で、しかも1教師のせいで俺の想い人が死んだとなったら。
「許せない。絶対に後悔させてやる。社会的に、精神的に殺してやる。二度と人前に出て話せないように、屈辱を。」
俺の頭は寂しさや悲しさよりも怒りに支配されていた。
どこかで聞いたことがある。
この世で一番強い憎しみは愛を巡って生まれるもの
この場合少し違うのだろうが愛を巡っているのであながち間違いではないだろう。
「待ってろよ。」
「復讐したら俺もそっちに行かせてくれよな。」
「二人の邪魔はしないからさ。」
「佐野の幸せな顔が見たいから。」
「またな。」
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